■夜は明けて ◎ティユイ、キリ
序文
地球に隕石が迫りつつある頃、人類は大きく二つの派閥に分かれた。
一つは地球を脱出する一派。
もう一つは地球へ残るという一派。
どうして二派は相容れなかったのか。
それは時間的にも全人類を宇宙へ逃がすことが不可能であったためだ。
しかし、一方で地球に残る者たちはこのような主張をはじめた。
ヴラシオが落下しても人類――生命は死滅などしないと。
――◇◇◇――
朝の寝室にアラームの音。しかし室内は真っ暗で何も見えず、ただ音だけが鳴り響いている。
キリが寝室に明かりを入れようと手を伸ばすと、細い手が絡んでくる。
「……明かりは点けないでください」
ティユイの声だった。
「いや、ここまで真っ暗だと何も見えないから」
キリの声はあきらかに困惑の色が滲んでいた。
「暗くてもだいたいはわかるはずですよ」
部屋の配置もそうだが、床にモノもほとんどないはずだ。
「そりゃそうかもだけど」
キリは寝返りをうつと思い出したかのように発言をする。
「俺、休暇中にフユクラードへ帰るつもりなんだ」
「そうなんですか?」
ティユイはキリの意図を測りかねたので、質問のような返答をしてしまう。
「ティユイも一緒に行かないか?」
ティユイはしばらく何も言葉を返せないでいた。そういえば昨晩、彼からプロポーズを受けたのであった。
――つまり、そういうことだ。
「……本当に私でいいんですか?」
「俺、悪ふざけであんなこと言わないよ」
そうか。世界はすべてを自分に欺いていたわけではない。彼の好意は真実ではないかもしれないが、嘘ではなかった。
ティユイは胸のあたりがじんわりして、顔が紅潮をするのを感じる。
「じ、じゃあ、お願いします」
これで伝わったのだろうか。
「レイア艦長に相談しておくよ。たぶん許可は下りると思うけど」
キリはベッドから出ようとする。
「……もう起きるんですか?」
「いつまでも寝てるわけにもいかないしね」
布が擦れる音。
「シャワーを使うならキリくんが先に使ってください」
「……わかったよ」
キリの声には少し困惑していた。
暗がりで足元がわからない中、寝室の出口へ手探りで進んでいく。仮に踏んだとしても足元にあるのは衣服くらいのものだ。
寝室の扉に触ったときにキリはほっと一息つく。
「それじゃあ、お先に」
キリは出て行くときに振り返るとティユイは顔だけをあげて微笑する。それからキリが寝室を出たあとにティユイが安心した表情になったのを彼は知らなかった。
彼は意気揚々として、不思議な自信が満ちていた。おそらくティユイの機微に気づけなかったのはそれも関係している。自信は同時に慢心も生むのだ。
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