■群青の喪失 其の二 ◎ティユイ、ケイカ
「一部の制限解除を確認。これより、この地は特級戦地二号に認定。以降、六鱗並びにツルギの使用を許可するものとする」
「……六鱗を前方に収束展開」
ティユイは静かにつぶやく。
「広域展開でないとダメージを受ける可能性があるよ?」
「……構いません」
光の奔流を六鱗で防ぎつつ、ラゲンシアはじりじりと動きだす。同時に光が四方八方に飛び散り建物を破壊していく。
わずかだが、奔流がラゲンシアの装甲をも削いでいく。
その間にラゲンシアは背中を反らして、スラスターを全開で噴かす。
すると体が少しずつ上昇をはじめる。
最初は自重で少し落下したようにあったが、高出力のスラスターが機体を持ちあげていく。
「橘を使います」
ツルギを抜き放ち、黒い刃は白銀へと染まっていく。
「ケイカさん、あなたを許すわけにはいきません」
『皇女様からすればそうでしょうね』
ペルペティは両手のひらに光を溜めて、ツルギを真剣白刃取りで受け止める。
「受け止めた!?」
「持っているツルギを手放して!」
驚愕しているティユイに対してポリムが指示を出す。ハッとしたティユイは慌てて右手のツルギを手放す。
そしてペルペティは再度、両手から光を放つ。それは白刃取りした橘を一瞬で灰塵にするほどの威力である。それを至近距離で受けなければならない。
「六鱗を展開!」
ラゲンシアの六鱗を張りつつ、後退ではなく前進を選ぶ。背部のスラスターの推力を全開にした。
「……機体が保つかな?」
「多少の損傷なんのその!」
ペルペティは光を放ち終える。それと同時に上空より盾が降ってくる。ラゲンシアのものだ。
ペルペティは盾ごと正拳で上空を撃ち抜く。だが、そこにラゲンシアはいない。
「ブースト加減を調整させてもらいました」
『お見事ですよ、皇女殿下』
それは諦めたような、安心しきったような声だった。
ラゲンシアが橘を縦に一閃するとペルペティは真っ二つに割れる。
ペルペティのコックピットは腹のあたりのはず。つまりケイカは先ほどの一言が最期の言葉であったということだろう。
「周辺に敵機はなし。ブカク内の各所で起こっていた戦闘も無事鎮圧されたみたいだね」
ポリムの報告を聞いてもティユイは安心できず、ただ動悸だけが激しく鳴っていた。
それから回顧都市の町全体が揺れだして、周辺の建物が足元のほうから泡になって溶けはじめる。
この回顧都市は六〇年で泡となって消えゆくように設計されて、消失する残りの数年はこれから死にゆく者たちが過ごすために解放されていた。
故にティユイが足を踏み入れたときに人影がほとんどなかったのは、彼女が肩を貸した男性こそ最後の一人であったためだ。
黄昏が迫る。
泡となって消えゆく町並みは茜色に変わっていこうとしていた。
誰もいなくなった町が泡となっていく。
死ねば遺体すら残らない。
光となって舞っていくだけだ。
自分の子供には記憶が引き継がれる。
故にこの世界の住人は子供を育て終えたことを自覚すると食事の一切を摂らなくなり、現代を生きる者たちと距離を取り生活するようになる。
仮に男が望んだことであったとしても――、そもそもここで戦いが起こらなければ男は穏やかに死を迎えられたのではなかろうか。
いや、それが本当に穏やかな最期であるのか。
それは我々がまだ理解できる領域なのだろう。
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