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■群青の喪失 其の一 ◎ティユイ、ケイカ

 群青の空と同じ色をした獅子型のメカが白い人型メカと合体する。

「粋だねぇ」


 ポリムが隣で感心している。

「私、ああいうロボも好きですよ」


『名はペルペティと言います。以後、お見知りおきを』

 ケイカとは通信がオープンにされている。


 青いロボは武装もないまま構えをする。要するに徒手空拳ということだ。


「ティユイ、ツルギから放たれる粒子は人体をたやすく分解する。この町には生存者がいる。使用は禁物だよ」

「では、どうするんです?」


 砲撃も居住区では禁止されている。よってラゲンシアの装備はほぼ封じられたといって過言ではない。


「ラゲンシアも徒手空拳ですか?」

「もちろん可能さ。性能ならあちらの機体には負けないはずだよ。リーチがいるならツルギを鈍器として使えばいい」


 とは言えとティユイはペルペティに向き直る。

「モノベ流突撃戦法、有効かですね」


 ラゲンシアは光弾銃から盾を外して地面に置く。盾だけを左手に持ち替えた。

「盾で攻撃を防ぐんだね」

「目隠しにも使えますから」


 ペルペティが走り出すと同時にラゲンシアのほうも走り出す。

「突撃戦法って、要するに待ち構えるんじゃなくて攻めて攻めまくるってことだよね」


「何とでも言ってください」

 後手だろうが、先手だろうが攻撃にまわるのがモノベ流である。


 ペルペティから突き出された正拳を盾で受け止めて押し返す。だが、そこからペルペティは即座に拳を引いて、右脚から蹴りを繰りだす。


 盾でなんとか受け止めるもラゲンシアは後ろへよろめく。

「相手は崩しを仕掛けてきているね」

「ええ。あの娘、かなりの手練れです」


 ティユイは瞬時に余裕はないなと判断した。技量で言えば大差はない。あとは駆け引きという実戦経験がものをいう。


 そうなるとティユイは不利なのかもしれない。


 拳で盾を敢えて叩いて、後退させる瞬間に蹴りを繰りだしてくるかと思えば、接近してきて本命の正拳が胸のあたりをかすめる。


『うまく避けましたね』

「……どうも」


『ペルペティは関節を可動させることで余剰エネルギーを発生させます』

 急にケイカが語りだす。


『地上戦用のこの機体だと余剰エネルギーは腕の部分に溜まっていくようになっています。……つまり、必殺技となるわけです』


 ティユイはペルペティの両腕からエネルギー奔流が収束していくのを目視で確認する。

「くるよ!」

 ポリムが注意を促してくると同時にペルペティの両腕から光を放つ光弾が巨大な奔流となって襲いかかってくる。


「盾では防げませんね……」

「六鱗も展開できないんじゃね」

 六鱗もまた生存者が周辺にいる場合は使用許可は下りない。このままで潔く直撃を受けるしかない。


 そんなときだ。


 モニターにティユイが肩を貸した男の姿が目に入る。その視線に気づいているのか男はティユイのほうをじっと見つめながら口を動かす。


 彼はこう言った。『自分に構うな』と。

「どうする?」

 ポリムから問われる。それでも決心はつかない。ここで六鱗を使うということは制限(リミツター)を解除して、町並みの破壊に(ちゆう)(ちよ)がなくなるということだ。


 それを判断したとき彼を殺したのは果たして誰になるのか。


 ――そう。自分だ。自分は武装をしていない一般市民を殺してしまう。


 しかし、このペルペティはまさに一般人を盾にすることで攻撃を仕掛けてきている。ケイカは一般市民と同じ格好で自分に接触してきた。


 ケイカは軍人でもないのにこうして強力な力を行使してきている。結果、人が死にそうになっている。


 私服で武装しているのはテロリストしかいない。つまりケイカはテロリストである。よって命の保証をする必要はない。


 だが、足元にいる彼は違う。


「迷っている時間はないよ」

「わかっています」


 再度、男の口が開く。

『私は十分に生きた』


「だとしても、あなたは穏やかに死を迎える権利があるんです!」


『ありがとう。でも、よいのです。ティユイ皇女、私はあなたの命を守りたい』

 男は満面の笑みを浮かべて、生きる権利を放棄したことを内外へと通達した。


 ティユイは何かを言おうと口がわなわなと震えるも何も言えない。


 それから思いのかぎりを叫ぶ。

 声がコックピットを通り抜けて、あたりに響きわたった。


お読みいただきありがとうございます。

引き続きよろしくお願いします。

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