■二〇二六年三月二二日 ◎物部由衣、式条桐
冬の寒さが少し和らいできて、優しい陽光が降り注ぐ昼の最中。
御所の建礼門前はそれなりの人通りがある。
二人の制服はほどなく近くにある公立中学校のものだ。なので、その制服姿自体は大して珍しいものではない。
由衣が歩く後ろを少年はそわそわした様子でついてくる。どうして横を歩こうとしないのかは由衣が聞きたいくらいだった。
しかも二人は周辺の通行人に比べて身長が高く、嫌でも人目を惹いた。それについて二人が気にした様子はなさそうにある。
「式条君、どうかしたんですか? 様子が変ですよ」
「い、いやぁ、その……」
少年はあたふたとしながら言葉を出そうか引っこめまいか、迷っているというよりは言いだせないというほうが正解かもしれない。
由衣が振り返って立ち止まる。それにつられて少年も歩みを止める。少年は視線を合わせづらいのか俯き気味でいる。
由衣は首を少し傾げて、不思議そうに少年を見つめる。
彼が何を言おうとしているのか、待ってみようか。
「その、さ。俺たち付き合いも長くなってきただろ。だから、その……」
由衣は彼が懸命に絞り出そうという言の葉を待つ。
「好きなんだ。俺と付き合ってくれないか」
少年は精一杯の勇気を出したのだろう。その勇気と裏腹に由衣の返答は至って短くあっさりとしたものであった。
「はい。お願いします」
そのときの少年の顔を由衣は忘れないだろう。だから、どんな顔をしていたのかは由衣だけの秘密となる。
ただ、彼女は我慢できず大笑いをしてしまった。
二人の失念はそこが往来であったことだろう。その後に少しだけ二人は有名人になった。
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