■漂着する二人 ◎ルディ、セイカ
■序文
あらゆるものの時間は進んでいるように思われていた。
しかし、時間というものを観測するうちに状況によって時間は逆行もしているということがわかった。
人類はそれを一緒くたにして時間が前に進んでいると認識しているだけだとわかったのだ。
時間の流れを理解するようになって人類はようやく時間庫と呼ばれるものを発明した。
室内の時間の流れを遅くするという装置であり、技術が陳腐化した現在に至っては食糧の長期保存になど使われている。
――◇◇◇――
龍の通り道の中は激流である。通常で巻きこまれればひとたまりもないが、六鱗を張っているとなれば話は別だ。
「左腕の旋風をロスト……。右腕のツルギもロスト、か」
ジルファリアの格闘戦能力が著しく低下したことを示していた。
「ベルティワイザーはどうだ?」
六鱗で機体を包みこむように張っていれば無事のはずだ。しかし、激流の中では機体の位置の把握もままならない。
それにしても龍の通り道というのはどこから現れるのだろうか。実はその原理はあまり知られていない。クエタの海に蓄積された情報を整理する際に起こる現象などと言われたりもするが、それはあくまで仮説の域を出たわけではない。
ジルファリアのスラスターを噴かせながら渦の中心から徐々に動く。龍の通り道に巻きこまれた際の脱出法は教練を受けている。
実践する機会は極端に少ないし、基本的に行われるのはシミュレーションだ。実践で行うにはあまりに危険な行為であるからだ。
渦を何とか脱出するとまずは位置の確認である。人機内に携行食を入れたサバイバルセットは常備されているが、それはあくまで最低限のものだ。
現在のルディはいわば漂流者であり救援を必要とする立場にあった。
『こちらベルティワイザー。聞こえるか、こちら――』
オープンの通信をジルファリアのほうでも受信する。
「こちらジルファリアのルディだ。聞こえるか、ベルティワイザーのサカトモ・セイカ」
『こちらベルティワイザー。ジルファリアの音声を受信した。こちらの現在位置を送る。合流がしたい』
ルディは「了解」と音声を送る。
それから合流した二機は近くの水母に向かうことにした。生活空間が存在しない人機内での長期滞在は厳しいためだ。
彼らがたどり着いたのはオウエルと呼ばれる水母だった。人工建造物がどこもかしこに見受けられるものの住宅などの人口が密集する生活空間が存在していない。
つまり無人の水母である。その大きな理由はここが墳墓であるためである。死期の近い皇族はこの地で最期を迎えるのだ。
「漂着したとはいえ許可なく足を踏み入れるのは恐れ多い土地だ」
ふうとセイカはため息をつく。
現在、彼らは港へ降り立っていた。ここでは人機を整備するような設備はなく、いまは可動チェックをするくらいしかできない。
それを終えた二人は人機から降りていた。
「許可申請はしてくれたんだろう?」
「それだとしても、だよ」
こういった状況でなければ足を踏み入れる機会があったかすら怪しい。それほどに畏れ多い地である。
申請とはいうものの整備されているのは港にある一部の道路くらいのものだ。住居などは必要がきたときに建造するのでいまは存在しないのである。
「となると野宿というわけか。経験は?」
どう呼んでいいのか迷った挙げ句にルディは名を呼ぶのをやめた。それにセイカは思わず苦笑いする。
「名を呼ぶときはセイカでいい。その代わり私もルディと呼ばせてもらう」
「承知した」
「それと先ほどの話だけど、一年前に実地訓練はしている」
「救助がくるまで一週間ほどかかる可能性がある。食糧の備蓄が確認できなければ自活しなければならない」
お互いの協力は不可欠だということである。
「救助がくるまで野宿の可能性もあるわけだ。困ったね」
セイカは飄々(ひょうひょう)とした仕草を見せる。おそらく平常心を装うための彼女なりの処世術なのだろう。
「問題は食料だ。確保をどうするかだが……」
これから生態のデータをとる必要があった。場合によっては狩りをする必要がある。
「そのあたりはあなたが頼りだと思っているけど」
「俺も経験では君とそうは変わらない」
――まずは野営に適した場所を探そう。
こうして敵味方であった二人は協力して生活をすることになったのである。
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