■セイカの憂鬱 ◎セイカ、ニィナ、リルハ
キーロ港の一角にフグのような飛行船のような形をした戦艦が寄港していた。
そのまわりを黒い軍服を着た人々が忙しそうに駆けまわっている中で一台の軍事車両がやってくる。
降りてきたのはハート型のサングラスに腰まで伸ばした長い髪の一五~一六歳くらいの少女だった。短めのタイトスカートにデニムのジャケットを羽織っている。
少女は少し離れたところに直立姿勢でいる黒い軍服姿のセイカのところへ歩いて向かう。
「急な呼び出しに応じてくれてありがとう」
セイカがにこやかに少女を歓待する。
少女はセイカの前に立ち止まるとサングラスを外して敬礼をする。
「クラバナ・ニィナ、招集に応じ馳せ参じました」
「頼りにさせてもらうよ」
セイカはニィナを軽く抱擁する。
すると軍用車両からもう一人の少女が出てくることにセイカは気づく。
「リルハもいたか……」
セイカは抱擁を解くとやれやれと頭を抱えるような仕草をする。
「ひさしぶり、お姉ちゃん」
ショートカットの髪。服装はマウンテンパーカーにロングスカートの少女で年齢はニィナと同じくらいだろうか。
清々しい雰囲気をまとった少女であった。
「どうしてリルハがここに入れたのかな?」
どういうことかとセイカはニィナに説明を求める視線を向ける。
ニィナは小さく頷くと話をはじめる。
「ハルキアで五カ国会議を開こうという動きがあるのはご存じですか?」
「いや、はじめて聞いたよ」
「レギルヨルド隊にはリルハ王女の護衛の依頼が本国からくるはずです」
セイカは目を丸くしている。
「ニィナはその話をどこで?」
「リルハ……王女からです」
リルハはセイカに手を振っている。何を考えているのかはいまいちわからない。
「お姉ちゃん、よろしく」
「リルハ、護衛がつくということは行動にも制限がつく。わかるね?」
「うん。私も立場は理解してるつもり」
「ならいい」
そう言ってセイカはリルハの頭を優しくなでるとニィナに向き直る。
「ニィナは着替えたあと、リルハと一緒にミーティングルームで待機。リルハの今後は艦長と相談してくるよ」
セイカはそれだけ言い残して去って行く。
取り残されたニィナとリルハは互いに顔を見合わせる。
「キリはティユイ皇女に告白したんだよね」
「そうですね」
ニィナは途端に不機嫌そうな表情に変わる。
「ニィナってわかりやすいよね」
「ファランドールに乗っているんでしょ、キリ」
「そうみたいですね」
ニィナはぶっきらぼうに答える。キリのことを聞かれたら感情を殺しきれない様子だった。
「あれから一年くらいだっけ。キリが出て行ったの」
「私に何の相談もありませんでした」
「それってニィナにフラれたって思って話しづらかっただけじゃない?」
「あのとき私は軍への配属が決まっていて、その……答えは急がないほうがいいと思ったんです」
「で、結局のところはどうだったの? ニィナの思いは」
その問いにニィナは空を仰ぎながら答える。
「どうすればよかったんでしょうね……」
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