■二〇二五年五月三一日 ◎物部由衣、式条桐
京都市内。
荒神橋の下で少女は雨宿りをしていた。
何層にも重なった分厚い雲が覆われて、あたりは日中だというのに薄暗い。
急に降り出してきた気分屋の通り雨のおかげでひどい有様だ。
傘もなかったので制服はびしょ濡れ。明日が土曜日なのが救いだった。だが、濡れたままで家に帰るのは少々骨が折れる距離だ。
どうしたものかと少女が首を捻っていると、ブレザーの少年がこちらに近づいて声をかけてくる。
「ひどい雨だね」
彼はリュックからフェイスタオルを取り出して、少女に差し出してくる。少女は突然、声をかけられたことに戸惑って、タオルを手に取るか迷った。
「あー、このタオル未使用だから」
少年は少し勘違いしていた。それが何となくおかしくて少女はタオルを受け取ることにした。この行為に善意以外のものはないだろう。
「ありがとうございます」
少女が髪の毛をタオルで拭いていると少年が濡れていないことに気がつく。
「俺は降る前から橋の下にいたんだ」
少女の疑問について、視線で察したのか少年は濡れていない理由を語ってくれた。
「いつ止みますかね?」
「もうすぐ止むよ」
それから雨の勢いが少しずつ弱まっていく。
雲の裂け目から光が射して虹がかかる。
少女は橋の下を出ると少年も後に続いてくる。
横に並ぶ少年と少女は鴨川の景色にすっかりと溶けこんでいた。
夕日に照らされた雨粒が反射して街をオレンジ色に染めあげる。
これが少女と少年の出会いだったのだろう。
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