■出撃 ◎ティユイ、ルディ、キリ
カラーコード:レッドの発令によりファランドールの格納庫内がいっきに慌ただしくなる。
ティユイたちパイロットはリーバに乗りこんで待機していたが、たったいまドッキング指示がでたところだ。
「ドッキング開始でいいんですよね」
ティユイはポリムに訊ねた。
「それでいい。ティユイは考えるだけで、あとはオート操作してくれるよ」
たしかにそうで、面倒な操作はすべてオートである。リーバは浮きあがり、ラゲンシアとのドッキングをはじめていた。
「前回の戦いで気がついたんですけど、ラゲンシアの動きって私の思考を先まわりしていませんか?」
「よく気がついたね。その通りだよ」
「どうやってるんですか?」
「テレパシーというものがどういうものか理解できるかい?」
聞いているのに質問で返されるのはなかなか理不尽だろうとティユイは思った。
「怒らない怒らない。テレパシーとは思考を瞬間同期させることと定義されている。一方的に相手の思考を読みとるんじゃなくてね」
「それと先読みすることに何の関係があるんです?」
「思考の瞬間同期ということは思考伝達にラグが起こらないし、伝えたいことにズレが発生しない。要は思考のレイヤーが瞬間で重ねられているような状態ということだよ」
――思考をそのたとえでいくとすれば結果的には一枚の絵が完成されるということになる。
「人物の行動習慣とかが瞬時に理解できるからパイロットの行動欲求を先読みして叶えるようになっているんだよ。人機には意志があるって言っただろう。もともと人格のようなものが備わっているんだ。それがより強固になったのが人神機さ」
「そうなると時間の概念に疑問が生じませんか?」
「思考の伝達と解像度が人によって違うわけだから、時間の進みが人によって違っていた。これが頭脳明晰という人間の正体なわけだ」
「それだと同じ人間でも時間の進み方が違うということになりますよ?」
「外見は成長したり年老いていくから錯覚するけど、思考の世界において時間はまったく違う進み方をしていたということだね」
「だから思考と精神の世界を分けて考える必要があるんですね」
「それと肉体もね。精神は永久だけど、肉体は有限、思考は刹那的なものだからね」
それらは一見して同居しているようにあって、実は同じ時を過ごしているわけがないというわけだ。
「これ本当に操作しなくていいんですね」
ドッキングしたラゲンシアは勝手に最後部のデッキへ移動をはじめていた。
「反復操作はオート操作が間違いないからね」
「たしかにそうですね」
そういえばロボットアニメの出撃シーンも大半はそんな感じであったことを思い出す。
後部デッキに三機が揃うとハッチが密閉されて海の水が投入される。加圧がはじまったのだ。
水がデッキ内に満たされるとルディから通信が入る。
『各機へ。このまま命令があるまでデッキ内で待機』
『了解』とキリが返答するのに続いてティユイも「了解」と答える。
現在、ファランドールはスヴァンヒルトという艦に砲撃をかけながら接近しようとしていた。
接線領域:五〇になると出撃ということだ。
「接線領域というのは敵対する艦同士の距離感を示しているんだ。二〇〇なら両艦とも射程外みたいにね」
「なるほど」
「さあティユイ、間もなく出撃だよ」
「はい」
後部デッキのハッチが開きはじめる。
『キリ機ならびにティユイ機は俺の左右につけ。行くぞ』
ルディから指示が入る。
人機同士の戦いがはじまろうとしていた。
お読みいただきありがとうございます。
引き続きよろしくお願いします。
感想、評価、お気に入り登録も今後の励みになりますので、ぜひお願いします。




