■敵の正体に迫る ◎ティユイ、シンク
「未確定な情報という前提で聞いてほしいことがある」
シンクは右手の二本指を突きたてる。
「一つは新生四天王について。奴らはおそらく異世界から召喚された連中だ」
他の物語世界を検索した結果、ベイトとトウカらしき人物を見つけたそうだ。ベイトはそこで土人形を使って戦っていた。それは復讐を誓った男の血みどろの旅である。
彼はそこで土人形使い(ゴーレムマスター)と呼ばれていた。
「実際はこちらに受肉できる肉体を用意しておき、物語から抽出した魂や記憶をインストールしたんだろう」
相変わらず魔法じみているとは感じる。しかしだ。
「その技術的なものはすごいと思いますけど、どうしてそんなことをするのかが理解できません」
「軍を動かすには大義名分がいる。一方で新生四天王みたいな連中なら好きに動かせるという事情なんだろう」
「軍の人が言うことを聞かないとかですか?」
「軍人であれば命令には従う。だが、軍は国民の支持によって成立するんだ。支持が得られない状況で軍を動かすのは私兵化したということになる」
ここは独裁者が統制する国ではない。ソウジ・ガレイがどれほど権力を手中に収めようが、その点は変えられない。だからこそ、私兵を必要としたのであろう。
「敵側も苦労しているんですねぇ」
「わがままを通そうとするからさ」
それをシンクは一蹴する。新生四天王の話はこれくらいで打ち止めのようだった。
「他にも何かあるんですか?」
「ラゲンシアのことだ」
ティユイの乗機についてらしい。
「ラゲンシアなんだが、まだ隠された機能があるみたいでな」
「その設定いいですね」
ティユイは目を輝かせる。ニヤリと口の端をあげる。こういうことには食いつきがいい。
「……設定とか言うなよ」
「その機能はどうすれば発揮できるんですか?」
「この場合、危険性の有無を確認するものだろ」
シンクは呆れているようだ。
「パイロットの能力を極限まで引きだすかわりに、命を危険にさらしてしまうシステムというのも燃える展開ですよね」
「そういう機能じゃないのはたしかだな」
シンクはため息をつく。
「ティユイにはラゲンシアに乗っているときも巫女としての能力が発揮されることを自覚してほしい」
「どういうことですか?」
「カリン王女の話を聞いただろ。祈りはやりすぎると命を落とす可能性がある」
「私がラゲンシアに祈りを捧げていると?」
たしか命を少しだけ人機に捧げるという行為であったか。
「乗っている間に同じ行為をしている可能性がある。だから気をつけるんだ」
いまだにその点はいまだにブラックボックスということらしい。開発したほうがわからないというのだからどうしようもなかった。
「人機は多くの祈りを捧げられることで人神機になる。人神機になったあとも祈りによって意志がより確立されていく」
「不思議ですねぇ」
「何をのんきに言ってるんだ。ラゲンシアに取りこまれる可能性があるんだぞ」
シンクは咎めるような口調だが、ティユイからすればとどうすればというところだった。
「そうは言われても自覚がないんですよね」
「そりゃ一回乗っただけだけだものな」
シンクはしみじみとした口調になる。。
「乗ってくれと頼んだほうがいうのもなんだが、誰も君を犠牲にしようなんて思っていない。それはわかってほしいな」
「レイア艦長、優しいですものね」
「そこまで理解してくれているなら頼むよ」
「でも、祈りを捧げるのはどの女性でもいいというわけではないんですよね?」
「どうしてそう思う?」
「でなければ、ラゲンシアの巫女に各国の女王を指名する理由が思い浮かびません」
「たしかに。彼女たちは皇家の妃候補という役割もある。だから、皇家を象徴するラゲンシアの巫女として選定されるんだ」
「であれば、人機へ祈る内容は何でもいいわけではなくて、誰かを思っての行為ということですよね」
「いい着眼点だと思うよ」
シンクははぐらかすような言い方である。まるで本当のことを知っているかのように。
「そうなるとカリンやユミリがキリくんに思い惹かれるのと関係してますか」
「恋愛ごとは俺にはわからんよ」
シンクは肩をすくめるだけだ。だが、ティユイはそれを演技だと確信する。
スヴァンヒルトとの戦闘領域まで、あと少しであった。
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