■覚醒 ◎ティユイ、ベイト
灰塵と化した鎧から金色の人機が姿を現す。
対するゴギューズの右拳は先ほどの一撃で脆くも崩れ去っていた。
「頑丈な鎧だったな」
ベイトがつぶやく。ゴギューズは土塊から作られた機体である。よって使い捨てするというのが普通だった。先ほどのように全力の一撃であるならば拳が崩れ去るのも珍しいことではない。
修復するというより一から作り直すというのがこれまた通常である。よって左腕一本であの金色の機体を倒す必要があった。
『ハーイ。ベイト聞こえる?』
トウカから音声通信だった。
「どうした?」
戦闘中だと言いたかったのだが、トウカがいま連絡してくる理由を察してベイトは押し黙る。
『お別れよ。でも、連中の足止めはうまくいったから安心して』
「そうか」
『というわけだから』
「ああ」
『今生の別れなのにそれだけ?』
「悪いが、性分だ」
もう直せないということらしい。まあ、知っていたけどとトウカは呆れながらため息をつく。
『それではまた会いましょう』
「ああ」
そこでトウカからの通信が途切れる。
「ゆくぞ、ゴギューズ」
ベイトは眉一つ動かさずゴギューズに命令をする。腕時計のような発信器からゴギューズへ命令をするというのはそれほど嫌いではなかった。だが、それももうじき終わる。
契約は間もなく果たされる。
土色をした土偶のような人型の土塊人形のその先に鈍い全身金色を放つロボットが直立している。
岩戸鎧は灰塵と化して、鎧の下より雄々しいその姿を見せつける。
畳んであった背面のスラスターが翼のように展開する。それは羽化したばかりの蝶が羽を開くような瞬間。
「ポリム、どうなったんですか?」
「岩戸鎧が破壊されただけで、本体のダメージはなしだよ」
つまり、こちらは五体満足。戦闘続行可ということだ。問題は武装である。
「ラゲンシアの装備はツルギが二本のみだよ」
ツルギという名称からして刀剣の類いだろう。左下のディスプレイに機体画像の表示がされて、左右腰部に装着していることがわかる。
武装を使う際は柄の横部分にあるスイッチをスライドさせると、収納されていた握りの部分が現れる。
「刀拳と呼ばれる武器種で名は橘」
ポリムが解説をする。通常の刀剣との違いは握りが刃先に対して直角になっている。別名はジャマダハルとも呼ばれている。
「格闘戦形態に移行でよかったんですよね」
ティユイがそう言うと同時にラゲンシアのフェイスバイザーが目の部分を覆う。
「敵が繰りだす拳の威力は先ほどのとおりだよ。六鱗のない状態で直撃は避けたほうがいい」
加えて格闘戦を仕掛けようというのに盾もない状態だ。防御には不安が残る。
「では、突貫しましょうか」
ティユイは唇を舌で濡らす。
「……どうしてそうなるのかな?」
すかさずポリムがツッコミを入れてくる。だが、ティユイは気にするつもりはない。
ラゲンシアは左足を前に踏みだす。
身体を右斜めに反らす。右拳は橘を握ったまま、抱えこむようにして溜めるように刃の切っ先はゴギューズに狙いを澄ます。
「自身が持つ常勝の型とは決まっているものですから」
それがティユイは突貫戦法であると腹をくくっている。
「ゴギューズはさっきと同じようにカウンターを狙ってくるはずだよ」
「それは私が先ほどと同じ戦法でくると踏んだからです」
先ほどと違うのはこれからだろう。
姿勢は変えないまま、じりじりと摺り足でゴギューズと距離を詰めていく。
ゴギューズの右腕は欠けている。
つまり左腕で攻撃してくるしかない。
そこでラゲンシアは右方向から背後へにじり寄るような距離の詰め方をしていた。それは拳を振り抜いた際に右方向へ抜けることを計算してのことだ。
ティユイは突貫する角度を探っていた。それも身体の角度を変えつつ相手から察知されないようにじりじりと動いている。
「相手は戦い慣れしてるね」
ポリムの指摘は的を射たものである。たまに動きを止めたり脇を空けたりして、わざと隙を作って懐へ呼びこもうとする。
お互いに理解しているのだ。先に手をだしたほうが負けると。
だが、ラゲンシアは徐々に距離を詰めている。両者が間もなくぶつかるのは必然である。
そして先に動くことになったのはラゲンシアである。
ラゲンシアの右足が一歩前に出ると同時に上半身が横へバネのように撥ねて橘が突きだされる。
ゴギューズは左腕でラゲンシアの装甲を撃ち抜く威力のパンチを繰りだしてくる。しかし、それはラゲンシアの装甲を掠めるに留まる。
先ほどの位置取りがうまくいったということなのだろう。
ラゲンシアが突き出した刃はゴギューズの左脇腹のやや背中のあたりに突き刺さり、そのまま横に薙いだ。
斬ったという感覚というより分解したという感覚が近いだろうか。ゴギューズは背中のほうから横に真っ二つに割れる。
『見事だ、皇女よ』
それはベイトの声だった。
ゴギューズの体は崩れ落ちていき、青い炎に包まれていく。
「ティユイ、行こう。立ち止まっている場合じゃないよ」
気づけば可動限界時間のカウントがずっとされていた。あと五分らしい。
基地まではギリギリというところか。
ティユイはポリムに急かされるまま目的の地を目指すのだった。
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