■蒼天龍2 ◎ルディ、キリ、トウカ
相機であるキリの乗機はマグと呼ばれる世界中で使われている量産機のことを指す。違いといえば国家ごとに決められた色があるくらいだ。なので、黄色いキリの乗機はセイオーム軍であることを示している。
兵装は格闘専用の剣を一本腰に差しているのと、左手に盾、右手には銃を持っている。
『ルディ、俺が先行する』
盾を前面に出しながらマグが言葉通り先行する。キリがルディの盾になってルディを先に進ませるための判断であった。
実際、お面の口から熱源が感知されている。
お面の口から発射された熱源は中心が高熱なのに対して、周辺の空気が凍るほどの冷気。
――高圧収束熱線砲。そう呼ばれる兵器だ。
中心から伸びる収束熱線が周囲の熱を奪うことで、熱線周辺を零度以下にしてしまう。
熱線部分は超高温で周囲は空気まで一瞬で凍らせる冷気。どちらに当たっても無事ではすまないだろう。別名、冷凍ビームと呼ばれる。
対して、キリは六角鱗領域――六鱗と呼ばれるバリアを張って熱線を防御する。
六鱗というのは機体から照射される六角形の非実体のエネルギー体である。それをいくつも重ねながら鱗のように広げる。
あらゆる衝撃を六方向に拡散して霧散させる。受けきれない鱗は破壊されて、別の鱗が衝撃を受けてくれる。
最終的にダメージは機体まで届かない。これが六鱗というバリアである。
なので六鱗に触れた熱線と冷気は六方向へ拡散される。さらに拡散された熱線は別の六鱗に拡散される。これを幾重も繰り返すことで、攻撃の無効化が起こる。
ただ冷気によって周囲から霧が発生しており、視界が悪くなる――というわけではない。
人機の目はきわめて特殊である。ルミナスセンサーを備えているためだ。これは特殊な光を三六〇度に照射して、その反射した光から構造物の色、材質、距離に至るまで事細かに判明する。人間の視覚では感知できない光で、レンズを通さない形で立体構造を把握できるようになる。
『ルディ、ジュンナとかいうやつの配置はわかるな?』
「ああ。まかせろ」
ルディは短く返答する。
マグの銃から光弾が連射されて、お面の右耳の部分に当たる。お面は右端の部分が弾けとび、ゆらりと後ろへよろめく。
ジルフは背後のブースターを吹かして、キリのマグを飛びこえる。
そのままお面まで距離を詰めて右腕を縦一文字に振りかぶり、お面を一刀両断にする。
ジルフはそれから一刀両断したお面をもう片方の腕で払いのけて、そのままジュンナのいる箇所までブーストして距離を詰めようとする。
途中で板状が行く手を阻もうとするも、キリが銃撃をして注意を逸らす。板状はキリからの幾度の銃撃に注意を向けざるを得なくなる。
それはキリの狙いどおりのものであった。これでルディを気兼ねなくジュンナの所へ送りだせるためだ。
ジルフはジュンナに対して正面上空から強襲を仕掛ける。しかし、上空からというのは足元がガラ空きになってしまう。
結果的にジルフは攻撃の手段を狭めることになってしまっていた。よって、両腕の銃撃で牽制しつつ距離を詰める必要があった。
ルディが見るに女は操っているというよりジュンナという機体に対して腕時計型の端末を通して、指示をだしているのではないかと推測する。
ジュンナは顔をあげるとジルフに対して目から光弾を放ってくる。それをルディは砲撃を一旦中断させて、下方に六鱗を張って光弾を防御する。
光弾は防御できたものの軌道を逸らされて、ジルフの着地地点はジュンナから少し離れた場所になってしまった。
着地の際の隙を狙われる可能性があったので、キリのマグがジュンナに対して牽制射撃をするが、ジュンナには届かず霧散する。
おそらくジュンナにも六鱗が備わっている。よって砲撃では勝負がつかない。
六鱗は六鱗同士をぶつけると相殺されるという特性を持つ。つまり勝敗を決めるのならば必然的に近接戦闘をしかけることになる。
ジュンナは動く気配がない。ならばと相手の狙いがつきにくくなるように左右を蛇行しながら、あるいは飛び跳ねながら、ジルフはジュンナと距離を詰めていく。
ジュンナは右拳の一撃を放ってくるもジルフは左に体を反らして、かわしながらも距離を詰める。
それから左手に装備している旋風の銃身下に取りつけてある刃の固定ロックを解除すると刃の色が黒くなると取り外されて地面に落ちた。
それからすかさずに盾を前に押しだし、左足を一歩踏みだすとその部分の地面が音を立てて沈みこむ。質量コントロールで加重したためである。
左腕の盾でジュンナを殴りつけるよう意識しながら左方向へ振りかぶる。胸元に盾をぶつけられてジュンナは後ろへよろめいた。
人機に配備されている格闘戦用の一見すると剣のようなもの。光振刀と呼ばれる兵装である。
ジルフが右足をすり足しながら前に踏みこみ、右腕を振りかぶりジュンナの右肩から反対の脇腹にかけて斜めに切り裂く。いや実はそう言わない。ツルギで斬られる場合はこのように表現される。分解す、と。
特殊な振動で刃が白銀の光を放ち、その振動で触れたモノは量子サイズまで分解されてしまう。
右肩から左脇腹まで切り裂かれた部分は分解されてジュンナの上の部分が崩れ落ちる。
分解されたジュンナは崩れ落ちて、その土塊から青白い炎が燃えあがりはじめる。
青白い炎はすべてを包みこみ、何も残さなかった。
なお女の生死は最後までわからず終いだった。
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