■岩戸鎧 ◎ティユイ、ベイト
ラゲンシアは外装が固定されているため関節構造が機能していない。よって歩行ができない状態にある。なのでホバリングでファランドールが待機している基地へ向かう必要があった。
「何だかロボットに鎧を着せているみたいです」
ティユイはそう感じていた。
「ラゲンシアは岩戸鎧を装着した状態なんだ」
衝撃拡散機能と冷却装置を備えた装甲だという。ただし関節部分まで装甲が覆ってしまっているため関節がほとんど動かない状態だ。仮にこの状態で戦うことになれば、尻尾砲で牽制しつつ、突撃して両腕から突き出る刃で突き刺すという戦法しかないだろう。
機体はホバリングをして進むので、舗装された道路とはいえ野外に埃一つ落ちていないなどあり得ないことだった。足下周囲から砂煙が巻き起こるのはごく自然なことである。
基地まではほぼ一本道だ。おそらく、現状の想定で設計されたのであろう。となれば、待ち伏せも容易であるといえる。進行する先、道路の真ん中に人影が一つ。
雨はやんだばかりというのもあり、外灯に照らされてテラテラ光っている。
――何をしているのだろう?
映像を拡大すると男の姿が映しだされる。そのことに気がついているようで男はまっすぐにこちらを見据えてくる。
無造作に伸びた銀髪に顔を隠すためか左目に大きめの眼帯、それとボロボロのマントをまとっている。西部劇のガンマンをよりアニメっぽくヒーロー要素を詰めこんだような姿。
『お初にお目にかかる、ティユイ皇女』
男の口が動くとともに声が聞こえた。
『俺の名は新生四天王が一人、コガイ・ベイト。これより貴殿を黄泉路へ案内つかまつる』
ベイトと名乗った男は左腕の腕時計を口元に寄せて、こう叫んだ。
『グラバドス・ゴギューズ!』
地面が一瞬だけ揺れる。
「ティユイ、地下から熱源反応だ」
ポリムからの報告。それとともに地響きは徐々に徐々に大きなものになっていく。
舗装された大地は割れて、地面から人間一人が十分に乗れるくらい巨大な右手が突きでて手のひらにベイトを乗せる。
さらに大地が割れて盛りあがり、道路が砂塵とともに瓦解していく。その中から胴体の部分らしき姿と幾何学模様の彩光が放たれる。
砂煙が風で流されて人影が鮮明になっていく。
一見すれば土偶のようにもあるが、それは紛れもなく四肢を持った人型のメカだ。
ゴギューズはベイトを乗せた右手を左肩に寄せると、ベイトは軽快な動作で左肩に乗り移る。そしてゴギューズの顔横にある取っ手を掴んで自身を固定している。
どういう身体構造なのかとさすがにティユイも疑った。
『行け、ゴギューズ』
ゴギューズは一歩を踏みだすと地響きが起こる。
(ちょっと格好いいかも)
ティユイは思わず思ってしまう。こちらは玉座から立っただけという地味な登場だというのに、どうして敵対しているほうの登場を派手にするのか。
ティユイはちょっと納得できなかった。だったら、今度はこちらが傾いてやる番だろうと考える。
「では、こちらも礼儀としてモノベ流突貫戦術をお見せしましょう」
ティユイは息巻く。
ラゲンシアの後部ブースターを全開にして、言葉通りゴギューズに突貫を開始する。
「モノベ流突貫戦術って存在するのかい?」
「いま思いつきました!」
「あ、そ」とポリムは呆れた口調だった。
ゴギューズは目から光弾を複数連続で撃ちだしてくる。ラゲンシアの装甲を撃ち抜くほどの威力はないようで、直撃をしても次々弾いていく。これならかわす必要はない。もといかわすのももどかしい。
「あの何とかっていうバリアは張らなくていいんですか?」
ゴギューズの光弾はラゲンシアの装甲に直接当たっている。
「六鱗のことかい? この装甲には同じ機能が備わっているからいまのところは問題ないよ」
もとい正式名称は六角鱗領域という。機体を中心に六角形のバリアを幾重に照射させて、あらゆる衝撃を霧散させるというものだ。
「限界はあるんですか?」
「衝撃拡散を装甲で補っているだけだから、限界値はあるよ。だから、それまでに決着をつけるのが望ましいね」
相手は光弾でこちらを倒すのではなく、足元や腕など突貫する際の勢いを削ぐような箇所をピンポイントに攻撃してくる。
こちらも尻尾砲で牽制してやりたいが、いかんせん生身の人間が左肩に乗っているという事実がある。さすがにと軍規などに関係なくティユイはためらった。
そのうえでこちらは相手の懐へ向かっている。ちょっとまずいかもとティユイは思いだすが、戦法としてはやはりこのままいくしかない。
ゴギューズを射程内に捉える。右腕から突きでている刃で突きの一撃を繰りだす。しかし、ゴギューズは右足を後方に下げるという最小の動きでかわす。
――まずい。
ゴギューズはただかわすためだけに右足を後方に下げたのではない。これはカウンターの一撃を狙ったものだ。
ラゲンシアが突撃してくる胴の部分をゴギューズの右拳は突き刺すような鋭さで撃ち貫く。
ラゲンシアがまとっていた漆黒の衣は一瞬で灰色へと変貌し、灰塵が舞いはじめる。
「これってピンチでは?」
ティユイはさすがに動揺を隠せなかったが、ポリムの態度は至って冷静なものだった。
「そんなことはないよ。むしろ手間がはぶけたくらいさ」
今宵は朧月夜のごとく。
ボロボロに崩れて灰塵となった衣の中よりまごうことなき黄金色の外装がかいま見える。
ラゲンシアの双眸にたしかな意志を感じる。
覚醒の瞬間であった。
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