■ナーツァリの王女3 ◎キリ、カリン
アースカの月輝読に祈りを捧げるのが四人の巫女の役割である。
それはセイオームを除く四カ国にいる時の王女の役目とされる。
王女は月輝読の巫女としてそれぞれ持ちまわりで一年をアースカで過ごし、毎日欠かさずに祈りを捧げにくる。
本来は長くて一〇秒くらいの祈りとされている。カリンのように倒れそうになったの稀なこととだった。
何せ自らの生命を捧げるのだ。強い祈りは自らの生命を危うくする。カリンは一歩間違えれば生命を絶っていたかもしれない。
キリは神社を出ると、ここまで乗ってきた車両の助手席にカリンを乗せる。車両は軍用のものではなくレンタカーである。
キリがこれから行うのは軍用通信でレンタカーの機材は使わない。軍より貸与された通信装置を後部座席から取りだす。といっても、それはイヤホンのような形状をしており、キリはそれを左耳に装着する。
連絡先はレイア艦長だった。
「艦長、保護対象を確保しました」
『そう。では、保護対象を無事に連れて帰ってきなさい。それがあなたの任務よ』
音声だけの会話だ。この艦長をキリはどことなく苦手だった。
はじまりはいきなりパイロット候補にさせられたことだったろうか。自身の両親は学者なので、軍人とは縁遠い家系だった。にも拘わらず、パイロット候補にさせられたときは彼女の正気を疑った。
「質問をよろしいですか?」
『許可しましょう』
「保護対象の話について指示がなかったのはどうしてですか?」
『私が言わなかったからよ。あなたの場合、事前通達したら身構えるでしょ』
と言う割には面白がっている風にも思える。
そういえばユミリにレイアとは姉弟なのかと問われたことがある。何故かどことなく似ていると言われることがよくあった。
実際は姉弟でもなんでもない。キリがレイアに出会ったのはセイオーム軍に入隊したときがはじめてだ。
『というわけで、王女をしっかりエスコートすること』
いいわね? とキリは念押しされる。上司だし、隣にはカリンが既にいるのだ。断れるわけもない。
「了解」
キリが返答すると『よろしく』とレイアが言って、通信は切れる。
「王女はその服装で?」
カリンは巫女服のままだ。
「着替える場所がありませんから。それともここで着替えましょうか?」
「いえ。そんなつもりでは」
滅相もないとキリは否定しかかって、カリンがいたずらっ子のような笑みを浮かべて舌を少しだけぺろりと出している。それで自分がからかわれていることに気がついた。
「勘弁してください」
「年相応の扱いをまわりがしてくれませんから、たまにこうやってからかってやることにしているんです」
カリンはまだ一二歳ということだ。しかし、大人びた外見のせいで、どうにも年齢相応に扱われたことがないらしい。いつの間にか本人も大人びた行動をするようになって、いまに至るということだった。
「いつまでも王女扱いしているからです。せっかくなんですから、一人の女の子として扱ってください」
車を発進させる。
「では、カリンと呼んでも?」
これがしばらく考えあぐねた結果だ。
「私はキリさんと呼びます」
なんとなくだが、カリンは嬉しそうだった。キリはそんな彼女のことを不思議そうに目を向ける。
「カリンは俺と友達になるつもりかい?」
「あなたは男性ではありませんか。もう一つのほうかも?」
カリンは妖艶に微笑む。キリは本当に一二歳なのかと疑う。
仮にこれが冗談にしてもだ。キリは顔を引きつらせながら思ったことを口にする。
「勘弁してくれ……」
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