■人機 ◎ティユイ、ルディ
人型駆動機関――それが人機と呼ばれる全長およそ二〇メートルある人型ロボットの総称である。
この人機に機動鎧と呼ばれる。クエタの海内を移動するためのスラスターを装着して、武器を装備することではじめて兵器と呼べるものになる。
その呼称は本来、機動戦略兵士と呼ばれるべきものだが、やはり名称が長いということで軍内コードでも人機と呼ばれている。
ルディと自己紹介を簡単にすませたあと、ティユイは彼に連れられて人機が配備されているスペースに来ていた。
そこには艦外から運び出された二機の人機が並んでいる。
一機は黄色い。ティユイの見た感じの印象を一言で伝えるとすれば、『なんかやられメカっぽい』だった。
対して、隣の青い機体は『主人公メカっぽい』ということらしい。
「黄色い機体は石汎機と呼ばれる。世界共通で使われている機体だ」
ルディの解説になるほどと頷く。量産機ということかとティユイは妙に納得する。
見た目は国ごとに違うという。セイオーム軍では黄色をパーソナルカラーとして採用している。
のっぺりしたバイザーの中に二つの双眸が反射して見えるときがある。
人機の特徴として質量は三万トンあるという。いくらなんでも重すぎやしないかと聞いたら、質量コントロールが可能らしい。
「隣の青い機体は蒼天龍。俺の乗機だ」
「マグはキリ君の?」
ルディが頷く。
巨大人型ロボットが直立で何の支えもなく目の前に立っているのを見せられて、ティユイは沸き立つ感情をぐっと抑えていた。
「そういえばキリ君はどちらに?」
彼も人機のパイロットであるならば周辺にいるのではないか。というか、京都を出て以降、顔を見ていない。たった一晩程度のことではあるのだが、長く顔を見ていないような気になる。
「キリは別任務で基地外にいる。君と俺はここで現状待機だ」
「はあ」
ルディの口数は多くない。しかも初対面。ティユイも何を話していいかわからない。が、何となく黙っているのも居心地が悪い。
「キリ君と付き合いは長いんですか?」
「君より出会ったのは早いな。ケイトにいる間も人機の訓練に付き合っていた」
人機の訓練? ケイトで? ティユイは彼がよくプレイしていたロボットを操縦して対戦するゲームを思い出す。そういえば彼がまったく勝てなかった相手がいた。
「ひょっとしてRさんですか? キリ君がいつも負けていた」
自分も彼には挑んだことがある。少なくともキリよりは彼といい勝負をしていたが、結局勝てなかった。
「そうだ。一応、教育係も兼ねている」
――あまり向いていると思わんが。と彼は付け加える。たしかになかなか容赦のない戦いぶりであったと記憶している。あれが教練になっているかは微妙なところだろう。
「キリ君、あんまりうまくなってませんよ?」
「キリはもともとパイロット志望じゃなかった。親も学者だと聞いている」
適正は厳しいだろうとルディは語る。
そういえば新人類は親の記憶を子供は引き継げるということだ。であれば先代の資質もある程度は引き継ぐ可能性があるということか。
「ただ、ファランドールはパイロット不足でもある。それにやりようがないわけでもない。役割が果たせるというなら問題はないさ」
ルディの口調からもキリを足手まといに感じていることはないようだ。それよりティユイはジルファリアのことが気になっていた。
機体構造はマグとまったく同じということだが、装備している機動鎧の形状がまったく違う。なんというかヒロイックというべきか。
あと双眸に宿る意志のようなものを感じていた。
「さて、これからの君の動きについて話をしてもいいか?」
「お願いします」
ティユイは何となくぺこりと頭を下げる。
「君の役目は目標地点まで行き機体を受領することだ。諸手続きはすでに終わっている段階にある。あとは開始時間待ちだな」
「特に難しい話はなさそうですが?」
その割にルディの態度は奥歯に何かが挟まったような物言いである。懸念事項でもあるのだろうか。
「おそらく襲撃が予想される。その場合、君は単独で切り抜けなければならない状況に陥る可能性がある」
「大丈夫なんでしょうか?」
最近はことあるごとにこの言葉を使ってしまう。任せてくれという状況でも自身の不安は簡単に払拭できるようなものでもないということか。
「こちらの戦力の把握を敵がどれほどしているかだな。状況によっては君が襲撃されても、こちらが援軍にまわれない可能性がある」
「その場合、私一人でなんとか切り抜けるしかないと」
密かに燃える展開だと、ティユイの心は一瞬だけ浮つく。
「そういうことだ。敵が動きを見せていない状況では、こちらは起こった状況に対して判断を適宜くだしていくしかない。残念ながらな」
キリは単独任務の後、マグで持ち場につくという話であった。どうやら出会って話すのはしばらく先になるらしい。
そのことがティユイは残念に思った。
「ところでキリ君の任務って何なんでしょうか?」
極秘任務であれば答えてくれないかなと思ったら、ルディはあっさりと答えてくれた。
「現地の地理調査と要人保護と聞いている」
ルディは曇天覆う空をただ見あげた。
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