■戦うための大義 ◎ティユイ、レイア
水母に外部から入る方法は主に二つ。
一つは傘から入る。これは緊急時のみということでのみ許可される行為となる。
要は傘に穴を開けて侵入するという行為になるのだが、その際にクエタの海が水母内に入らないよう穴の開いた部分に同質のフィールドを張る必要がある。
侵入後は穴を塞いでから内部に入るという工程を行わなければならない。
その工程をしても穴を空けられた傘の部分は一時的に弱まってしまう。それで大きな事故が起こった事例は過去にないが、推奨はされていない。
もう一つが水母の口から入るというものだ。実はこれが一般的な方法である。
口の部分は水母に特殊な信号を送ることで開閉を行うよう操作できる。
そこから艦船が管に入るとクエタの海を排出する。
管の中は無重力になっているので、海が排出されても艦船は落下しない。
排出後は上の口から通常の海の水を流れ落ちてくる。それが満たされれば上昇して、晴れて水母内に入って海面にあがれる。
水母内中心部には円形の海が広がっており、それを囲うようにして大地が存在している。
さて、アースカという水母はナーツァリに属する領地である。よってセイオーム軍所属の艦船であるファランドールは通常であればアースカの軍港には寄港できない。
そこで企業の有する港にキャッシュを払って寄港するという手段をとっていた。
当然ながら軍施設の使用許可は下りていない。よって企業の私有地を一時的に借り入れて、艦が寄港した港周辺に仮設テントを立てることで軍を展開していた。
その一角、ティユイはレイアに呼ばれて同じテントの中にいた。
ティユイとレイアは仮設の机を挟んで対面で椅子に座っている。
「さて、ティユイ。軍を動かすとなれば大義が必要になるわ。あなたには私たちが掲げている大義名分について伝えましょう」
ティユイはレイアの真剣な眼差しを向けられて粛然とした態度で頷く。
――海皇とは万世一系によって繋がれてきた皇系の一族である。
一族を守るために多くの分家筋があり、宮家と呼ばれる存在が男系の血筋を守ってきていた。
ところが、ここ千年で宮家の廃止が着実に進んだ。そして近年になり宮家は皇族の系譜から排斥された。
よって一家で男系を支える必要がでてきたわけだが、女系での維持するべきという議論もはじまっている。
「女系ということはティユイが海皇の座について、その子が海皇の座につくということになる。その夫にソウジ・ガレイは自らを指名しているのよ」
「それに問題があるということですよね?」
「これを認めると万世一系が崩れることになる。その問題は些細なことだから容認すべきというのがソウジ一族の主張。それこそ千年くらいずっと言ってるわ」
レイアは鼻で笑う。
「理由を考えることが間違えているのよ。男系で千年どころかもっと長い年月を維持できているんだから。それくらい自然体ということ。そもそも男系とか女系とかいう言葉の存在が問題なの。問題にすべきでないことに対して問題定義を行っている。本来は概念的に語るようなことないにも関わらずね」
ソウジ家はそれを千年の間、この世界に仕掛けてきたということである。恐るべき執念といえよう。
「ソウジ一族の狙いがあるんですよね」
「単純よ。一族の悲願である権威と権力を一本にして手中に収める。王朝の乗っ取りを企んでいるのよ。しかも、自分たちが王朝を取った後は男系に戻すなんて段取りまでしているんだから」
レイアは呆れているようでもあった。
「第一三独立部隊は有事の際に皇族の護衛と保護を優先的に行えるよう設立された部隊。司令である私の主張も先ほどの通りだし、とある筋からのセイオーム軍としての正式な任務よ」
「いまは有事なんですか?」
「そ。おかげで私たちはとても動きやすくなっている、状況は生かさないといけないわ」
――平時のほうがよほどやっかいだと彼女は言う。
国家とは平時の時でさえ存続の危機にさらされている。
国を傾かせるのはそれほど容易い。軍事を弱らせる手段を講じればよいのだから。
常に国家は存亡の危機にある。
多くの人は自らの見たい風景しか見ないという。
「ティユイ、あなたはいまから兵装科に配属になるわ」
それを見計らったように男性が一人、テントの中に入ってくる。
物静かそうな佇まい。つり目なせいかぱっと見には近づきがたい印象。長い髪を後ろで束ねている。
「紹介するわ。彼が兵装科人機パイロットのカナヒラ・ルディよ」
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