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■種々なる世界 ◎ティユイ、ユミリ


 ティユイは思わずあくびをしてしまう。あれから一晩寝たものの、何となくまだ目が醒めきっていない感覚に覆われている。

「まだお疲れ?」

「何だか気怠くて……」

 隣を歩くユミリは苦笑する。


 いまは彼女にファランドールの案内をしてもらっている最中である。

 レイアは寝ていれば親との記憶の同期が進むと言っていたが、まったく実感がない。それもそれだが、艦船の中だと昼夜の実感が一切ないので、あれから八時間寝ていたということしか聞いていない。

 昼夜がある意味存在していないのだ。おそらく妙な感覚はこのせいだろう。


「皆さんは艦内でどんな生活しているんですか?」

「艦内では八時間ごとにオンオフがあるの。八時間の艦内活動したら、以降は八時間の休息が与えられるの。もっとも有事になるとそうも言ってられないけどね」


 あははとユミリは気楽に笑う。彼女の言うにはそのうち慣れるからということだった。

 ユミリは衛生科で人機パイロットの健康面などの管理を行う部門にいるらしい。だからパイロット候補のティユイとレクリエーションを兼ねて、艦内を案内しているということだった。


「艦内の配置は覚えた?」

 大雑把な説明になるが、艦の中心部分の最上部に発令所が設置してある。その下部部分が生活空間、艦尾のほうは人機や諸々の格納庫ということだった。


「ある程度ですけど」

「構造を覚えておけば、他の艦に乗るときもいいのよ。艦内配置はグローバル・スタンダードだから」

「ということは他にも国があるんですか?」

「あるよ。全部で五つ」

 セイオーム、ハルキア、フユクラード、ナーツァリ、アークリフ。それが五カ国それぞれの呼び方らしい。


「こちらはセイオームに所属する軍艦ということでいいんですよね?」

「うん。そうやよ」

 ユミリはあっと口を押さえる仕草をする。しまったという表情だ。

「どうかしたんですか?」

「ちょっと方言がね。気をつけてるんだけど」


 相手と親しくなるとどうしても出てしまうということらしい。ユミリはティユイより少し年上ということだが、親しみやすい女性だとティユイは思っていた。

 それに方言が出たということは、それだけ自分に親しみを感じてくれているということで、ティユイからすれば嬉しい話だった。


「方言って問題あるんですか?」

「意味が伝わらないことがあるから、仕事中は禁止って言われてるんだ」

 なるほど。それが命に関わることもあるということか。

 ユミリがそれからしばらく歩いてから扉の前に立ち止まる。


「ここは休憩所。せっかくだし案内するね」

「はい」

 ユミリについて扉をくぐると、決して広くない室内で幾人かが壁一面の巨大なディスプレイに向かって作業をしていた。

 空いている席を二つ見つけるとユミリはその席にティユイを誘う。


「私の隣に座って」

 ティユイは「はい」と言って、ユミリの隣に座った。

「これが現在の娯楽よ」

 ティユイのよく知っているロボットアニメが自分の目の前にあるディスプレイに映しだされる。それ自体も十分に驚くべきことだったが、衝撃はそれで終わらなかった。


 なんと実写調からアニメ調にまで自由に変更が可能である。

 しかもフォーカスをよく知る主人公にあてるだけでなく、周辺人物どころか、作品に一切登場しない一般人にまでフォーカスできる。


「な、何なんですかこれは?」

「世界は一つじゃないってことらしいわ」

 クエタの海にアクセスするようになった新人類は数多のこことは異なる存在の世界を知った。

 しかも未だに世界は増え続けているという。


 自身がフィクションだと思っている世界もこことは違うどこかに存在する。そのフィクションだと思っている世界を物語として別世界の住人が楽しんでいる。

 そして、物語を楽しんでいる住人を俯瞰する自分。

 世界とはきわめて壮大であるが、矮小ともいえる。


「ある時期を境にあらゆる世界でドラマチックな展開が起こるそうになったそうよ」

 それは衝突だという。世界から世界へ繋がる扉が現れたり、生まれ変わったり、世界同士の衝突が起こった。

 そして世界同士に大きな衝突とうねりが生まれる。

 それはいわゆる『お約束』と呼ばれるものらしい。


「お約束って作り手が考えた展開のことですよね?」

「それは作り手が自分で展開を考えたと思っているからでしょ」

 何だろうかこの平行線はとティユイは首を傾げる。


 そうかユミリは物語とは人間が想像したものではなく、実在した世界の出来事を不特定の誰かが受信して、それを自身の創作であると思いこんで発表したものだと主張しているのだ。

 では、『お約束』が想像の産物ではなく、現象であるというのならば物語の出来事は実在現実ということになるのではないか。


 異なる世界の住人に異なる世界の物語を見せるということで現実をあたかもフィクションと錯覚している?

 これに何の意味があるというのか?

 いや、それ以前にである。


「世界が増えすぎると崩壊するっていう話はどうなるんですか?」

 多元宇宙だったか。たしか平行世界がいくつも分岐していって、それが耐えきれなくなって宇宙が崩壊するという話だったはずだ。


「結論から言うと起きない、かな」

 世界はどれほど分岐しても繋がっている。途中で途切れても誰かが繋げてくれる。多元的で重層的だが、向かう場所は一つ。一見独立して思えるものも繋がっている。

 世界同士は反発しない。むしろ寄り添っている関係にある。


 つまり、世界は収束していく。


 ティユイは自身の理解がおぼつかない話を聞いて呆然とするだけだ。


 それからユミリにアースカ到着の報せが届いたのは間もなくのことだ。

お読みいただきありがとうございます。

引き続きよろしくお願いします。

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