■青狐が往く ◎レイア、ティユイ
tips
『カラーコード』
戦艦内における三種の警戒態勢のこと。
「カラーコード:○○発動」で開始の合図
「カラーコード:○○解除」で解除。
「カラーコード:○○から○○へ移行」で変更。
・レッド
すぐさま出撃する場合に発令される。
ロボットや車両などは、燃料を満載して格納庫から出撃準備を行う。
パイロットや戦闘員は、パイロットスーツを着用してロボットや車両に搭乗し、出撃する。
・イエロー
出動体勢のまま待機する場合に発令される。
ロボットや車両などは、いつでも第一種戦闘配備に移れるよう燃料を満載し、出撃準備を行う。
パイロットや戦闘員は、いつでも第一種戦闘配備に移れるよう、所定の場所で待機する。
・グリーン
戦闘警戒、戦闘が予測されるので警戒体制を取る場合などに発令される。
パイロットや戦闘員は、パイロットスーツを着用し、数分以内に戦闘に入れるよう基地内に待機する。
艦船の中とはいえカタチを持つモノが水母の外に出るには相当の勇気を要する。
クエタの海は死の世界である。人体の少しでもクエタの海に触れたならば人体はたちまち融解してしまう。
その恐るべき海にファランドールは旅立つ。
「進行方向に所属不明機が多数展開中です」
レーダー手から報告が入る。
「所属不明機の兵装はわかる?」
レイアの問いかけに「現在、調査中です」と返答が返ってくる。
「所属不明機より入電。『青狐に告ぐ。直ちに降伏せよ』返信はどうしますか?」
緊張感の奔る会話の応酬である。
「通信手、我らが古きよき伝統に則り『バカめ』と返答なさい」
レイアの口調は抑揚の抑えたものであったが、それでも心なし楽しそうにも聞こえる。
「了解。こちら青狐、『バカめ』送信完了。……所属不明機より受信。『これより貴艦を殲滅する』」
「『やれるものならやってみるがいい』と返してやりなさい」
通信手が指示通りに返答したようで、ディスプレイに映っていた敵影が一気に赤くなって攻撃的になったような気がした。
レイアは表情一つ変えずに淡々と指示を出していく。
「通信手、カラーコード:レッド発動。ルディとキリは戦闘配備のまま待機――出撃はよほどでないかぎりないことを伝えて」
「了解」
「戦闘士官、所属不明機は本艦のみで撃退する。所属不明機はすべて敵機と認定」
「了解。艦首砲発射準備を開始します」
「敵機殲滅後は最大船速で一気に戦線を離脱。アースカに直行する。以上が作戦である」
レイアがシンクに目配せをする。あとは任せるという合図なのをシンクは理解していた。
「敵機はリミッターを解除しています。こちらを本気で落とすつもりのようです」
レーダー手より報告が入る。
「ならばこちらも状況に対応する必要があるわね」
リミッターが解除されているという発言に対して、発令所内の空気の緊張度があがる。
「あのぅ、どういった状況なんでしょうか?」
ティユイは声をあげるのも躊躇ったが、ここは敢えて質問をすることにした。
「相手はこっちを本気で落とす気でいるということよ。もはや皇女の命は気にもとめないということでしょうね」
レイアは変わらず淡々とした口調だった。動じた様子がない。彼女は既に覚悟を決めているということなのだろう。
「こっちは一隻で立ち向かうんですよね。武器とかはあるんですか?」
「軍の潜水艦は設計段階で兵装に細やかな規制が入るの。この艦はいまどき珍しい高出力の艦首砲が一門のみよ」
それは普通、切り札的な必殺砲の類ではないか。大体こういうのは一発撃てば機体が動けなくなったりするのがお約束である。
「砲門を向けるのに艦体ごと動かさないといけないとか、まあ兵装としては問題ありよね」
それはそうだろう。だから普通はそれ以外の兵装があるものではないのか。
「でもね。ファランドールはこれでいいのよ。この艦はあなたを守ることに長けている」
どういうことだとティユイは訊ねようとした。だが、事態は待ってくれない。
「敵機、こちらに照準を合わせてきました」
敵機たちは扇状に展開している。砲撃がはじまればファランドールはハチの巣だろう。
「艦首砲を広域放射する。戦闘士官、装填はどうか?」
シンクの問いに戦闘士官は「いけます」と答える。
「照準はかまわん。艦首砲発射」
ディスプレイに映る赤いシンボルがファランドールより放たれた砲撃によって次々にロストしていく。
ファランドールの砲撃は扇状に放たれたということらしい。
「一八〇度まで砲撃範囲をカバーさせる案は正解だったわね」
「三六〇度はさすがに艦首砲の意味そのものを問われかねないからな」
これも大概だろうと二人の会話を聞いてティユイは思った。
「敵機の残存確認はどうか?」
レイアの問いにレーダー手が答える。
「敵機の殲滅が確認できました。敵機残存ゼロです」
「よし! ファランドールは戦線を最大船速で離脱。目標、アースカ!」
実質的な勝利宣言をレイアが謳う。
ファランドールは最大船速でケイトをあとにする。
第一三独立部隊の船出であった。
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