■ファランドール発進 ◎ティユイ、レイア
ティユイはシンクに艦内を突っ切る形で発令所と呼ばれる一室へ連れて来られていた。
当然ながら、艦内を見てまわる余裕などはない。ティユイにとってその点がとても残念だった。
発令所というのはいわゆる艦船のブリッジに該当する箇所のことらしい。
ティユイの想像する艦のブリッジというのは明るく広くて、窓があり外の景色を眺められる展望台としても活用できるような場所であったが、現在いる場所はそれと真逆である。
窓など一つもなくて、狭い縦長の小部屋に一〇人くらいが縦一列に座っている。
ティユイから見て右手の壁面が屋根裏部屋のように斜めになっており、それが巨大なディスプレイになっている。おそらく小さい映画館のスクリーンくらいのサイズくらいの大きさだ。
ディスプレイにはこの艦船の姿と、あと地図だろうか。他にもよくわからない数値やグラフが映されてずっと変動している。
そのディスプレイを見ながら乗組員たちはマリモを操作している。ティユイからすればゲームをやっているようにしか思えないが、これが彼らの仕事姿ということなのだろう。
各々の座席は左手の壁沿いにあり、椅子は両肘つきに直径30センチほどの作業台が一つ。おそらくマリモを置いたりする台ということなのだろう。
右手のディスプレイに映っている画像は奥行きがある。表現としては立体視しているような感覚だろうか。
しかも光源はディスプレイの光くらいのもので室内は薄暗い。彼らはそれでも作業に差し支えはないようで手が止まったりする様子が一切ない。
「ようこそ発令所へ」
ティユイに声をかけたのはレイアであった。服装は作業着のようなものに着替えて、帽子はそのままだ。右手には登山で使うような杖を持っている。先ほどまでは礼装に近いものだったのだろうか。
何より目についたのは右肩に乗っている青い子狐だ。瞬きして尻尾をふりふりしているので人形などではなさそうだ。
「お疲れかもしれないけど、ぜひ皆の雄姿を見てもらおうと思ってね」
レイアはティユイにウインクをする。
「レーダー手、ティユイに状況説明できる?」
「はい」
答えたのは女性だった。
「現在、所属不明機が複数でこちらの進行路に展開中です。迂回路はどれも許可が下りておらず衝突は必至となります」
レーダー手の報告は以上であった。
「敵というのは確定ですか?」
レイアに訊ねる。
「こっちはともかくあっちはやる気満々ね。この艦の特性上あまり迂回路も使いたくないわ」
「どうするんですか?」
「正面突破あるのみよ。そうよねシンク副長」
「ああ、この艦はどの現行艦よりも速いという特徴がある。最高速度に達すれば追いつける艦はない」
レイアは「ということよ」と付け加える。
「レイア艦長、機関室よりいつでも出港できるとのことです」
「よし。では、通信手は乗組員の点呼と外部ハッチの閉鎖確認をなさい」
「了解。発令所より各科へ。乗組員の乗員状況を報告せよ」
男性の通信手は目の前に映るディスプレイの確認をして「乗組員、欠員なし。負傷もありません」とレイアに報告すると「よし。外部ハッチの閉鎖を呼びかけなさい」と指示をする。
「これより外部ハッチの閉鎖を行う。各員、注意されたし」
その発信が終わると、レイアは操舵手に指示をはじめる。
「操舵手、ハッチの閉鎖を確認後に出港。それに合わせて潜水開始。以降、タイミングは任せる」
「了解。各ハッチの閉鎖を確認。これより出港する」
男性が返事をする。
合わせてディスプレイより艦船が桟橋から離れる動画が中継される。艦内にいるというのに振動をほとんど感じない。本当にこの艦が動いているのかとティユイは不安になる。
「質量コントロール開始。これより潜水を開始する」
質量コントロールとは! ティユイはどういう意味かとシンクに視線を送る。自分に解説役としての役目がきていることに気がついたシンクが咳払いを一つする。
「親の記憶が子供に引き継がれる話は聞いただろ。それと同じ要領で船体の質量をコントロールしているんだ」
――物質もまたエーテルであり、形があるのかないのかは大した問題ではない。おかげで潜水艦はバラスト水で船体の重さをコントロールする必要がなくなっている。
「ほら、あなたが日曜日の朝によく観ていた変身ヒーローの話があったでしょ。実はいうと彼らの装着しているパワードスーツは質量をコントロールできるようになっているのよ」
「へえ」と生返事をティユイは返す。
どうして、自分が観ていたテレビ番組のことを知っているのだろうと不思議ではあったが、いまは聞けるような雰囲気でもなかったので黙っておくことにした。
レイアがコホンと小さく咳払いをして「艦内一斉放送をはじめる」と宣言する。
――各乗組員に告ぐ。皆、手を止めずに耳だけ傾けてほしい。
諸君らはファランドールの乗組員として選ばれた者たちである。そんな諸君らと共に分かち合いたいことが三つある。
レイアは一拍おく。その瞳はどこまでもまっすぐだ。
――一つは勇気。二つは知恵。三つは愛である。
勇気とは目標を定めることである。
知恵とは話し合うことである。
愛とは分かち合うことである。
――目標をなくして勇気を示すことはできない。諦めるとは道が閉ざされたときであり、あるいは見失ったときである。
状況は常に変化する。だからこそ我々は話し合わなければならない。
苦しみを、悲しみを、喜びを我々は分かち合わなければならない。
我々がここに集まっている意味をいま一度考えてほしい。
――私は皆とならばこの厳しい戦いを最後まで戦い抜けると確信をしている。
共に往こう死を抱く大海原へ。
レイアの声がひときわ大きくなる。
――ファランドール、発進せよ!
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