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此方より幻想へ。彼方より現実へ。~皇系戦記~  作者: あかつきp dash
第一六話 黄昏より入り、夜明けより出ずる国
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■八卦衆とその決着

「クーゼルエルガを与えられておきながら役立たずめ!」

 ガレイは大いに荒れていた。クーゼルエルガが敗北どころか機体そのものを浄化させられたのがあまりにショックであった。


 それを聞いたヒズルが激昂した表情でガレイの胸ぐらを掴む。

「貴様、それ以上しゃべるな。いままで容認してきたやったが、先ほどの言動はさすがに余りある」


「あなたに何がわかるというのか。クーゼルエルガは私の切り札だったのですぞ。それをむざむざと失った者を誹ることの何が悪いというのですか」


「自身のために命を賭して戦いた末に命を失った息子にかける言葉が“役立たず”と聞かされて許せるものか。貴様、誰からが自身に尽くしてくれることを当然だと思ってはいまいな?」


「それを傲慢だとでも言うつもりですか? どう言われようが、あなたも同罪なのですぞ」

 その言葉を聞いたヒズルは胸ぐらから手を離す。


「どうやら貴様と話をしていても仕方ないようだな。いいだろう。儂はもう行く」

「もう、あなただけが頼りだ。ヴラシオを必ず討ち取ってください」


 それはガレイにとって懇願に近い。

「……その約束はできんな。もう会うこともないだろう。これから身の処し方を考えておくことだ」


 ――さらばだ。


 ヒズルは冷たく言い放つとその場をあとにする。

 ガレイは自身の顔が蒼白になるのを感じていた。


    ――◇◇◇――


「ヴラシオ、出撃する」

 キリがそう言うと艦のハッチが開き、ヴラシオはそこから降下をはじめる。


「ヴラシオにはスラスター部分を切り離すことができるんだ。覚えておいてほしい」

 ポリムが肩から助言をする。


「わかった」

 降下するときは足元のほうにどうしても隙ができる。攻撃してくるタイミングとしては絶好の機会であった。


「……きた!」

 殺気を感じたとともに砲撃が下方から迫ってくる。それを六鱗を展開して防ぐ。


「妙な空気を感じる。ピリリとして抑えつけられるような……」

「演算に規制がかかっている。おそらく戦場に広域の結界が張られている。つまり敵の有利な状況になっているってことだ」


「ヴラシオは能力が制限されるってことでいいんだな?」

「機体は通常通りに動いてくれるから、切り抜けられるかは君の腕次第だね。こうなると他の機体が外にいることが悔やまれるね」


「だが、そうも言っていられないだろ。アスアは御所――ガレイのいるところへ連れて行かれたって話だ」


 一機が上空へ迫ってくる。それを砲撃の一撃で頭部から撃ち抜く。

「六鱗を張っていない?」


 すると機体は爆散しながら、黒煙を広げさせる。すると黒煙を突き抜けて、こちらへ突進してくる機体が一機。


『いただく!』と男の声がする。

「何?」


 ヴラシオの盾に取りつくと同時に機体から光を発しはじめる。

「自爆する気だ!」


 キリはヴラシオから銃に取りつけていた盾を取り外す。そしてヴラシオと自爆しようとする機体の間にガルダートが入りこみ六鱗を張らせる。


 自爆した機体からは陽光に反射してガラスのようにキラキラしたものが蒔かれる。

「これは六鱗の機能を中和するためのものだよ」

「盾を持っていったのはそのためか……。ガルダートは?」


「右前足と装甲に損傷は受けたけど、まだ戦えるよ」

「八卦衆と言うんだから、あと六体いるんだろうな。拡散砲で牽制するぞ」

「了解」


 ヴラシオの銃から小さな光弾が放射線状にいくつも戦場のほうへ向けて放たれる。

「敵の真下に降りられるか? 着陸すると同時に一機仕留める」

「索敵と軌道修正を行うよ」


 ヴラシオはツルギを抜き放ち地面へ向けて加速をはじめる。槍を構えた一機に狙いをつける。上空へヴラシオに突きの一撃を放ってくるのを上体をそらして躱しながら地面へスラスターを噴射して減速しながら、敵機の脇腹のあたりをすれ違いざまにツルギで胴を横一文字に真っ二つにする。


 さらに迫ってくる一機に光弾を放ち胸に穴を開ける。だが、爆散するまえに投げナイフのようなもの――クナイが投げつけられる。


 それはヴラシオを狙ったものではなかったために一瞬判断が遅れることとなってしまった。結果的にクナイはヴラシオの銃に刺さると爆発する。


 咄嗟のところで銃を手放してヴラシオは後退する。

「こいつら武器を狙っているぞ」

 

 ヴラシオの武器はツルギが二本あるだけだ。あとガルダートは――。

「ガルダートに二機が取りついたよ」


 そして二機は自爆してガルダートを損傷させる。墜落したガルダートは大きく損傷してもはや航行ができそうもない。


『我ら、ヒズル様のため!』

 二機が槍を使いながら攻めてくる。それをヴラシオは二本のツルギを両手に持って後退しながらいなす。

 

 左腕でツルギを振り抜くと白銀の光の軌跡がさざ波のように伸びていき敵機を切り裂いたと同時にツルギに錫杖の先端が白銀の光を払い黒く露出した部分を粉々に砕いた後に消失する。


『ヒズル様は我々がお守りする。貴様を倒すことはできずとも戦力を削ぐことならできる』

 キリは「ふう」と息を吐きだす。


「たしかにツルギがあと一本か」

 これを残さないとヒズル戦は厳しいだろう。それは間違いない。


『さあ、来なされ! この八卦衆が最後の一人であるテンガクがお相手つかまつる!』

 八卦衆、最後の一機が両手を広げている。武装もなく隙だらけの姿だ。それが返って不気味である。


「どうする?」

「嫌な予感しかしないけどな」


 キリはヴラシオを進ませる。そして頭上からツルギを振り下ろす。それで両手を光らせながらツルギを受け止める。

「真剣白刃取り!? しかし、そんなものでは……」


 ツルギから発せられる白銀の光がテンガクを分解していく。

『いや、我々の勝ちです』


 テンガクの両手から発せられる光が振動をしながらツルギを砕く。

「しまった!」


 ツルギそのものは構造上、頑強に造られてはいない。発せられる分解の光さえ何と化できるでのあれば破壊はそれほど難しくはない。

『肉を切らせて骨を断つ戦法です』


 テンガクは一言を残して消失する。

「機体熱上昇……。どうする?」


 ポリムが問いかけてくる。キリは進む先を見据えて、そこに待つヒズルの姿を見るのであった。

お読みいただきありがとうございます。

引き続きよろしくお願いします。

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