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■新世界へ ◎ティユイ、レイア

「さて、ティユイ皇女。これからのことをお話ししましょうか」

 ティユイはレイアに対して黙ったままコクリと頷く。

「あなたはいま皇女という立場とモノベ・ティユイという一般人の二つの顔をお持ちです。それを有効に活用しましょう」


「というと?」どういうことでしょうとティユイはキョトンとしている。

「第一三独立部隊はあなたをモノベ・ティユイとして迎えます。手続きとしては民間協力者という軍規がありますから、それを適用しましょう。我々はあなたを人機のパイロットとしてお迎えします」


「人機、ですか?」

 思い浮かぶのは京都縦貫で見た巨大な人型のロボットだった。

「ええ、根拠はあなたの母親よ。優秀なパイロットだったから。高飛車で生意気な小娘だったけど」

 レイアは笑顔を張りつかせているが、最後の方に怒気が含まれていた。というより、言い方に悪意があった。


「面識があったんですか?」

「私の教え子よ」

 レイアはため息交じりに「優秀だったんだけどね」ぼやく。いろいろと思うところがあるようだ。それよりもティユイには気になることがあった。


「私の母親の教官ということですよね……レイアさんはおいくつなんですか?」

「見た目通りってことはないわね。いくつだと思う?」

 レイアは意地の悪い笑みを浮かべて聞いてくる。ティユイはどう答えるべきか頭を悩ます。


「あなたの認識だといまは二〇二七年。それから千年以上が経過していたら世界がどれくらい変わったかなんて見当もつかないわよね。考えてもみなさい、二〇二七年の千年前を」

 二〇二七年の千年前は一〇二七年。歴史の出来事を思い浮かべてなるほどと感じる。


「――でしょ。いまのあなたは千年という時代を置き去りにされた状態ということ」

 レイアは左の胸ポケットから片方だけのイヤリングを手のひらに載せて差し出してくる。

「本来は記憶ギャップは徐々に埋めていくことを推奨されているけど、現状はそうも言っていられない」

 ティユイはそれが以前、桐からもらったイヤリングであることに気がつき、ゆっくりと右手を伸ばして手に取る。


「あなたの装飾端末アートデバイスよ。以前、キリ隊員からプレゼントされたものを少しいじらせてもらったわ」

「どういうものなんですか?」


「いわゆる受信機。エーテル通信するときにアクセスコードを発行するの。使い方は――使って慣れろってところね。そんな難しいものじゃないわ」

「はあ」

 ティユイはとりあえず右耳にイヤリングを装着する。


「これから、私たちはあなたをモノベ・ティユイと扱います。以降、私のことはレイア艦長と呼びなさい。民間協力とは言え、軍規はあなたにも適用となります」

「はい、レイア艦長」

 レイアは満足そうに頷くと立ち上がる。ティユイもそれに倣う。


「とりあえず、こちらが許可をした情報からアクセス権限を随時与えます。まずはあなたの母親の全戦闘記録、そして軍事規則を頭に叩きこんでもらうわ」

「軍事規則ですか?」


「大事なことよ。ここ千年で戦争が起こった際、致死率は一パーセント以下まで抑えられるようになった。それは軍事規則がしっかり守られているから」

「全部、覚えないといけないんですか?」

 ただでさえ読み書きは苦手なほうであったというのに。いまから法律の勉強とは嫌になる。


「ああ、そうか。あなた、自分をホモ・サピエンスと思いこんでいるのね」

「どういうことでしょう?」

「あなたも類に漏れず新人類ということよ」

 だから問題ないとレイアは言う。


「すぐに思い出すわ」

 レイアは両開きの扉を開けた。


 新世界へ、ティユイは一歩を進んだ。

お読みいただきありがとうございます。

引き続きよろしくお願いします。

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