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此方より幻想へ。彼方より現実へ。~皇系戦記~  作者: あかつきp dash
第一六話 黄昏より入り、夜明けより出ずる国
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■浄化の灯

『どけ。無駄死にしたくなければな』

『やだね。やりたきゃ実力でどかせてみな』


 ダイトの言葉にキハラが切り返す。

『減らず口を。容赦はせんぞ』


 クーゼルエルガが蛇が黒い炎をまといながら八匹現れる。この蛇の形容こそが黒陽の呪われし炎である。


『そっちこそな……』

 キハラがダイトとやりとりをしているとマコナから通信が入る。


『キハラさん』

『……まさか止めにきたんじゃねえよな?』

 キハラの表情は神妙な面持ちの一方で、マコナは言葉を必死で飲みこんでいるようだった。


『いえ……』

『あとのことは頼む。俺は姉上に謝りに行かねえとな』


『また、お会いできますか?』

『当然だ。それじゃあ、また後でな』

 キハラがフッと微笑を浮かべる。


『私が先行させてもらう』

 ホノエが言葉通り先陣を切る。それと同時にホルティザードの全身は金色を放つはじめ、それに呼応するように他の機体も同様のことが起こる。


『ホノエさん、生きてください!』

『カリン王女、過分な心遣いに痛みいります』


『どうしても行くというのですか?』

『友が往こうとしているのにどうして私だけが残れましょうか。妻と子にはよろしくお伝えください』


『嫌です! 自分でちゃんと伝えてあげてください』

『私にはできそうもないので、お願いしているのです。大丈夫、またお会いできますよ。きっとね』


 カリンにホノエは笑顔で返した。

『キハラ、短い付き合いだったな』


 襲いかかってくる黒い炎の蛇の一匹に大瑠璃の収束した光弾の砲撃を当てて吹き飛ばす。


 さらにもう一匹が襲いかかってくるのをガトリング砲で牽制しながらドッキングしていた雲雀を切り離して突撃させる。黄金色の粒子をまとった雲雀は黒陽を引き裂いていく。


 もう一匹がジルファリアのほうへ向かおうとするのに盾を投げつけて注意を引きつけて動きを止める。


『いや、案外とそうでもなかったぜ……』

 キハラが答えるとともにホルティザードがその蛇にめがけて槍斧の時鳥で振りかぶる。


『では、またな……』

 ――この光は俺たちにはまぶしすぎるな。


 時鳥が振り抜かれると黒い蛇は打ち消される。それからホルティザードは微動だにしなくなる。


『野郎、先に逝きやがってよ……。アズミ、俺が三匹は抑えてやる。だから、ルディをクーゼルエルガまで連れて行けよ』

『ああ、任せてくれ』


 ガナウィルクは金柑を迫りくる黒い炎へ投げつけて圧壊させる。そこから別方向へ向かおうとする黒い蛇の一匹を白虎の前足の爪で引き裂く。


『何故だ? どうして黒陽で取りこまれない?』

 ダイトは戸惑っているようだ。


『それがまだわからないってんなら。俺たちの勝ちだぜ』

 山茶花の刃が黒い炎を打ち消すとガナウィルクの動きが止まる。


『ルディくん、君には生き残ってほしいのだがな……』

「あんたは家族思いなんだな」


 ベルティワイザーがジルファリアを守るように同時に襲ってくる黒い蛇を槍――三日月で突き刺す。

『意外か?』

「ああ、お互いをもっと知る機会があったのかもしれないな」


『そうかもしれん。だが、時間ならいくらでもある――』

 八匹目の黒い蛇がベルティワイザーの三日月で貫くと機体が動かなくなる。


『おのれ……!』

 クーゼルエルガがツルギを構えてジルファリアを迎え撃つ。


 ジルファリアは霞以外の武器は捨て去り両手で柄を握ると、三機から舞いあがる黄金の粒子が収束していく。

 

 クーゼルエルガの大剣が黄金色になった霞がかち合うも、ジルファリアがじりじりと押される。


『重眼剣を受け止めるなど愚かなり』

「そうかな?」

 

 霞とかち合う重眼剣の腹からぴしりとヒビが入る。

「ダイト――貴様はクーゼルエルガがどういう機体であるのか理解しているのか?」

『理解しているとも』


「ソウジ・ガレイは自分の意に沿わない者をクーゼルエルガの装甲に取りこんで現在も苦痛を与えている」

『それがクーゼルエルガの力だ!』


 意に沿わぬ者がいるのは世界の広がる可能性を示唆するものだ。それを否定して自らの都合のみで生きようとするから例え大きな目標であっても矮小化する。


「そのために自らの悔恨を拭わないまま戦うというのか?」

『……それでもあの方は私の父上なのだ』


「そうか。ならば、あなたには最後まで俺たちに付き合ってもらう」

『何?』

 その瞬間、重眼剣は霞によって砕かれる。


「俺は――俺たちは誰も殺さない。その怨念のみ浄化する!」

 ジルファリアが霞を少し引いたあとに、勢いをつけてクーゼルエルガの胸板を貫く。


『や、やめろっ!』

 クーゼルエルガの装甲が淡雪のように白く変貌すると、やがて機体がぼろぼろと崩壊をはじめてクエタの海に溶けていく。


 そして霞は金色の粒子へとなりながらケイトヘ向けて飛んでいった。それを見送るように顔をあげたあとジルファリアは微動だにしなくなった。


   ――◇◇◇――


「マコナ艦長、報告します。ジルファリア、ベルティワイザー、ガナウィルク、ホルティザードの四機から生命反応がないそうです」


「そう……ですか。機体の回収を別の艦隊にお願いしてください。こちらにはいま回収に迎える機体がありませんから」


 マコナに努めて冷静に返答したつもりである。


 ――声は震えてなかっただろうか?


 いまの彼女にはただ目をつむって泣くことを堪えることが精一杯であった。

お読みいただきありがとうございます。

引き続きよろしくお願いします。

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