■最後の出撃
第一三独立部隊はファランドールを中心としてスヴァンヒルトとレギルヨルドを両翼に配している。ヴラシオを除く四機はすでに出撃している状態だ。
一方でセイオーム軍はダイトのクーゼルエルガと出撃してきたであろう戦艦の一隻がケイトまでの海道を塞いでいた。
「これはどういう了見かしら、ダイト司令?」
レイアの問いにダイトはためらいもなく答える。
『私はセイオーム軍の総司令を辞した。もはや軍属ではない』
「軍属でない者が軍事力を行使しようとする意味をあなたは理解しているの?」
それはテロリストとしての汚名を着るということだ。
『無論だ。私はもう生き残るつもりもない。それよりどうする? クーゼルエルガはヴラシオをもってしか抑えられん。さもなくば世界をこの黒陽で覆うだけのこと』
「……あなた、そこまで」
それは世界の破壊を意味していた。そんなことを冗談でもなく平然と言い放つことにレイアは戦慄を覚える。
『待ちな。だったら、その世界の命運とやらは俺たちが預かるぜ』
キハラが話に割りこんでくる
「……どうするつもり?」
『移火の儀を行う』とルディが答えた。
『やめてくれ。移火の儀をやれば……わかっているのか?』
キリは悲痛そうな声をあげる。まるで結末を知っているかのように。
『ファランドールは単艦でケイトへ向かえ。ここは我々四人が引き受ける』
『お任せください。我々が生還できないと決まったわけではない。お互い、生きてケイトで会いましょう』
アズミとホノエがファランドールの先行を促す。それに対してレイアは答えられずに口を震わせているだけだ。
『さっさと行けよ。でないと、そこのバカが勝手に出撃しちまうかもしれねえぜ』
「でも……」
ヴラシオなら勝機があるのだ。一方でクーゼルエルガの狙いも承知している。だからこそ迷うのだ。
『ヴラシオは温存しねえとだろ。いいから行けって。こんなところで差し違える気はねえよ。そのために四人いるんだからな』
「レイア」
シンクは『艦長』とは呼ばなかった。レイアはシンクへ顔を向けるとシンクはレイアの艦長帽をさらう。
「君だけで背負うようなことはない。だから、ここは俺に任せてくれ」
シンクは帽子を被る。
「レイア、俺は君のことを愛している」
レイアは突然の告白に顔を真っ赤にする。
「な、何を急に……」
「ずっと一緒の時間が長いせいなんだろうな。ずっと先延ばしにしていたが、それではダメだと気がついたんだ。やっぱり生とは有限なものだ」
「だからって、この場で言うことはないでしょ」
「この場じゃないといつ言うんだよ。俺は君がこれか背負うものを共にしたいんだ」
「だから、この場は任せろ」とシンクは言葉を締めるとレイアはしおらしい態度になって「うん」と頷く。
「レイア艦長は心労のためファランドールの指揮は副長のコクラガワ・シンクが引き継ぐ」
その言葉を聞いた司令室は「了解」とすぐさまに答えてくる。
「スヴァンヒルトとレギルヨルドは後方支援を指示。ファランドールは単独でケイトに向かう」
それから両艦から「了解」という返答がくる。
「時間がない。ファランドールはケイトの上部傘からの侵入する。空中にてヴラシオを放出後にファランドールは海へ着水する。このシークエンスはここ千年間で初の試みとなる。なので心してかかってほしい」
シンクの号令のあとから司令室は騒がしくなる。
「機関室よりいつでも発進できます」
「よし! ファランドール、ケイトへ向けて発進」
『みんなはいいのか?』
キリが通信してくる。それに答えたのはレイアでもなくシンクでもなく、キハラであった。
『俺たちのことは構うんじゃねえ。まっすぐ往け!』
『マシロを――あとのことを頼んだ』とぼそりとつぶやくのをキリは確かに聞いたのだろう。キリは目を見開く。
ファランドールは徐々に加速をしていく。そのあとを追ってくる者はいない。キハラたちがクーゼルエルガを抑えてくれている証拠であった。
「間もなく傘に接近します。ファランドール周辺にフィールドを形成。フィールドと傘の融接を確認」
それから間もなくしてファランドールはケイトの上空へと出る。
「傘の修復を確認。これよりファランドールは海へ着水します」
「各員に衝撃に備えよと通達。同時にヴラシオを放出する」
『俺は……』
キリは顔を俯かせている。
「行ってこい。決着をつけてくるんだ」
キリは顔をあげて言葉を飲みこんだように口を噤む。それから決意をこめた言葉を一言する。
『ヴラシオ、出撃する』
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