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此方より幻想へ。彼方より現実へ。~皇系戦記~  作者: あかつきp dash
第一六話 黄昏より入り、夜明けより出ずる国
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■夜明けの出発

 カミトにて。あれから一月が経過しようとしていた。帰港した第一三独立部隊には休暇が与えられていた。だが、それも間もなく終わる。


 ふうとニィナがため息をつく。

「どうしたんだ?」

 軍港は凜とした空気に包まれて薄暗い。


「ナワールの修理はやっぱりケイト攻略に間に合わないって」

「それは仕方ないよ」


「何とか同行だけ許可が出たのだけどね」

「ユミリたちも同行するんだったな」


「キリも覚悟を決めたんだから、私たちも待つだけじゃ嫌だから」

 先日、キリは世界中へ自身が海皇になると受け入れたことが大々的に宣言された。対して、ソウジ・ガレイはケイトでキリを受け入れることを拒否。


 これにより互いの武力をもって雌雄を決することになった。そして準備はすでに整っている。出発は本日の日の出とともにだ。


「ちゃんと帰ってきなさいよ」

 ニィナの表情は俯き気味で暗がりということもあり伺うことはできない。


「自分の家に帰るだけだって言われたんだけど、命がけなんだよな。一人で行くわけじゃないんだ。大丈夫だよ」

 キリは努めて明るく振る舞う。


「あのクーゼルエルガとか八卦衆とかヒズルとかいるじゃない。彼らは本気で命を狙ってくるわよ」


「だからルディたちがいるんじゃないか。ヴラシオだって武装していくんだ。そんな危険はないと思うよ」


 そうは言ったものの何となく予感はあった。それはヒズルと決着をつけなれければならないと。彼はそのためにいままでやってきた。そしてケイトでキリを待っているはずだ。


 それは互いの命を賭けたものになるであろうということも。

 ふと海の方へと二人の視線が向かう。


 一条の光が差しこみ、やがて扉を開けるように陽光が軍港をゆっくりと広がって照らしていく。


「一緒の戦場には立てないけど、私の想いは連れて行ってもらうから」

「ありがとう。たしかに受け取った」


 キリはニィナを抱き寄せて互いの右手と左手を絡めて顔を近づける。それから陽光が二人を包みこむのであった。


   ――◇◇◇――


「出発ね……」

 レイアは朝日を眺めるのを不思議な感慨を受けながらつぶやく。


「課題はいろいろと残したままになったな」

 隣にいたシンクはレイアを見つめている。


「ケイト内で戦闘になるのは決定よね。ヒズルはキリと決着をつけようとしている。……何でいまさら」


「ヒズルはコウカの師匠だったじゃないか。自分の子供のようだったろ」

「コウカを彼は看取ったのよね。その時に何を感じたのかしら?」


「時間のずれを感じたんだろう。結局、長生きしても人間は賢くならない。賢いが時代遅れになることもあるんだ」


「何でもかんでも忘れ去ることができないのよねぇ。この戦いが終われば私たちはどうするべきかしら?」


「俺も考えちゃいるが、思いつきはしないな。ヒズルみたいにはなれそうにない」

 二人はファランドールへ向かう車に乗る。


「いずれにしても決着がつくわね。長かった……」

「……そうだな」


 二人は再度、朝日に視線を送るのであった。


   ――◇◇◇――


 ルディ、アズミ、ホノエ、キハラの四人は港のブリーフィングルームで待機をしていた。

「覚悟は決めてきたのか?」


 キハラな神妙な表情を浮かべながら三人に視線を送る。

「正直言うと実感は湧かないな」と肩をすくめながらフッとホノエが笑う。


「結局、チオルには伝えられなかった。彼女はどう思うことか……」

「生還は万が一にもないだろう。それにクーゼルエルガをなんとして終わりじゃない。キリはケイトで一人戦うことになる」


 アズミの悔恨にルディは現実を突きつける。

「いずれにしろ支援は必要だろうよ。俺たちはどこまでもキリとともに戦う。たとえ魂だけになったとしてもな」


 そのキハラの言葉に一同は頷いて、同じことを復唱しはじめる。

「その身、滅びようとも魂こそ永遠なり。我ら戦士はたとえ魂のみの存在となっても主を守ろう」

 それから笑いあう。


「海皇を取り戻そうぜ――」

「そのためにケイトヘ――」

「往こう――」

「――戦場へ!」

お読みいただきありがとうございます。

引き続きよろしくお願いします。

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