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此方より幻想へ。彼方より現実へ。~皇系戦記~  作者: あかつきp dash
第一六話 黄昏より入り、夜明けより出ずる国
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■また新たな旅立ち

 アージの暗雲はすっかり晴れて霊体の飛び交う姿もなくなっていた。

 空を見あげればどこまでも蒼天が広がっていた。


 ユミリ、カリン、マシロ、リルハの四人は浜辺で眠った状態で発見された。

「四人とも命に別状はないそうだ。詳細は精密検査の結果待ちになる」


 シンクの報告を受けて、レイアは「わかったわ」と短く答えた。

「霊体までいなくなるなんてな。もう異界の魂がアージに集まることはないのか?」


「その役割をヴラシオが担うことになったのよ。これでヴラシオの存在する世界は終着点にして原始となったわけね」


「世界は先ほど生まれたって話か?」

「そうね。そもそも時間なんてものは経過していないのよ。あたりの景色が短い生の中で移り変わるから錯覚しているだけ」


「生きるは刹那か。俺やレイアの生も永遠のようにあって一瞬のできごとなんだな」

「永遠も刹那も根本は同じなのよ。つまり原始と終焉は常にそこに存在する」


「不思議な話だ」

「認知力の話だから。存在することを認めてしまえば何でもないことよ」


「一瞬を永遠にやり直すことが時間の経過と錯覚しているものの正体だったな」

「積み重ねるんじゃないのよ。同じ箇所に何度も上書きして、その課程を残したのが歴史ね」


「……世界は最初から繋がっていたのか」

「そうね。妄想とか夢なんかは現実で過ごす時間の中に見るものでしょ。だったら、存在しているし、それも現実として存在していると言えるわ」


「生きるってどういうことなんだろうな……」

「私たちって忘れることはできるけど、完全に忘れるってことができなくて、どうしても記憶が蓄積されていくそうよ。だから、脳をまっさらにする必要があるの。だから生を更新するんだって」


「ホモ・サピエンスは寿命を延ばして、どれくらいまで生きるのが正解かを探っていた。結論は五〇歳前後くらいまでの寿命にしておいて更新。脳はもう少し小さくしていいってことだったのよね。私たちは人類において失敗を認められた段階の存在よ」


「だからって簡単に死ねるものでもないしな」

「そ。だから私たちはいまある生をどう使うか考えながら過ごさないとね」


 海面が少し盛りあがったかと思うと黄金のボディを煌めかせながらヴラシオがガルダートとともに浮上してくる。


 着陸地点を指定されていて、ヴラシオは港の方へ歩いていく。

「息子の帰還だ。お前が迎え入れてやれ」


 意地悪な笑みをシンクは浮かべて、レイアは唇を尖らせる。母親など柄ではないと。

「ひとまずやれやれね」


 ヴラシオは直立のまま立ち止まるとコックピットが分離して降りてくる。

 その足元のほうで駆けよってきてからも視線をさまよわせながら、つま先立ちしたりするニィナの姿があった。


「……ただいま」

 ハッチが開くとキリがはにかんだ表情で降りてくる。


「よかった……。本当に」

 ニィナは感無量の表情へと華やぐ。


「このまま消えてしまわないかって心配しちゃった」

 ティユイのことを思い出しての発言だったのだろう。


「みんながずっと呼びかけてくれたからな。おかげでこうして帰ってこれた。ニィナこそ無事か?」


 ニィナはキリに見つめられて、思わず髪の毛を触ってしまう。きっと乱れていないのか気になったのだろう。


「私は大丈夫。でも、ナワールは大破しちゃって修理には相当かかるみたい。大見得きったのにね」


 たしかに機体は大きく損傷したが、コックピット内は無事であった。そのおかげでニィナは怪我一つしていない。


「気にするなよ。相手が相手だろ。よく戦ってくれたよ」

「……でも、次は決戦じゃない。たぶん一緒には戦えない」


 落ちこむニィナにキリは肩に手を置く。

「ありがとう。ならば、俺はその気持ちをもらって戦場に赴こう」


「……何それ?」

「気持ちだけもらっておくってこと。とにかく、あとは任せてくれよ」


 二人が会話しているところにレイアがやってくる。

「ちょっといい? 別働隊から連絡が入ったわ」


「それで?」とキリが訊ねる。

「みんなは無事よ。敵戦力を削ぐことにもとりあえずは成功。ただ……」


 敵戦力を削ぐことには結果として成功した。だが、クーゼルエルガに対してはキハラたち四機の人神機でも勝利することは適わなかったという。


「とりあえずスヴァンヒルト隊とレギルヨルド隊と合流するわ」

 それは準備か完了次第、ケイトへ向かうということ。


 決戦は間もなくであることを意味していた。

お読みいただきありがとうございます。

最終章開始となります。

引き続きよろしくお願いします。

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