■ソウジ・ガレイその人 ◎ガレイ、ヒズル、ミキナ
軍事訓練後の次の日に首相補佐が現地を視察するというのは、世間から見れば異例のことであろう。
しかし、それはソウジ・ガレイからしてみれば当然のことと言えた。
「ミキナよ、これはどういうことか」
広い車内。クラシックな内装。対面に二〇歳ほどの黒いスーツ姿の女性。俯いたまま顔をあげようともしない。両腕が震えている。
ガレイの肩幅は広く、太い腕っ節と脂ぎったような肉付きの中にたしかな鍛錬の形跡があった。目つきは自分以外の他者を蔑んだような釣り目。がっちりとして割れた顎。
対面するミキナからすれば大男に分類されるだろう。
「大きな失態ぞ。ティユイ皇女がレイアに抑えられたのだ」
重厚さを感じる声量。ゆっくりと諭すような速度の中に怒気が含まれているのを美希奈は見逃さない。
「娘を責めてやるな。情報が漏れたのだ。レイアがそれを見逃すわけがない。むしろ、今回の件は貴殿が招いた結果であろう」
ガレイの横に座っている初老なのか若いのか区別もつかない口ひげを蓄えた白髪の男がガレイを咎める。
男はティユイ皇女を軟禁しなければならない状況に陥らせたのはガレイ本人であると指摘しているのだ。
「ヒズル殿、失態は失態です」
「だが、ティユイ皇女はレイアに抑えられた。実態が暴かれるのは必須だ。貴殿は愚かなことをした」
ガレイが苛々しているのは空気感から伝わってくる。これはヒズルの立場だからこそ言える意見だろう。他の者が同じことを言えばどうなるか。ミキナは恐ろしくて震えるしかなかった。
「一刻も早く、アスア皇女を探す必要が出てきました」
「貴殿の望みを叶えるのであればそうであろう」
「“私”のものではありません。ソウジ家、千年の夢でございます」
――野望と言ってもいいだろう。内容からして、な。とヒズルは敢えて口には出さなかった。
「権力と権威の分散は現在社会において非効率的です。人権道義からしても平等に扱われるべきです」
「ソウジ家の代々に渡る主張か」
ソウジ家の目的は権力と権威を集中させることにある。それにいつの間にかソウジ家が代々として権力と権威を集中させて、国を実効支配するといシナリオがつくようになった。
いつからこうなったのかはヒズルも忘れた。だが、自分の横に座っている男を見て先祖はどう思うのか興味があった。
――それでこそと褒めるのか。あるいは愚か者と罵るのか。
「ミキナよ。あまり父を失望させるな。次こそ、わかっているな?」
「はい」とミキナは声の震えを抑えながら返事をする。
「ヒズル殿。とはいえティユイ皇女の件は対応すべき案件だという認識をしている」
「そうであろうな。して、どうする?」
「ティユイ皇女はこの世に存在しない。モノベ・ティユイという一般人の少女が匿われているに過ぎない。違いますか?」
「そういう解釈も可ではある」
だが、確実とは言いがたい。
「異界から呼び寄せた連中を使って襲わせたい。この際、邪魔者は全て消すべきだ」
「ティユイ皇女とそれを匿おうとする者も殺せか。穏やかではないな」
「異界の者が行うのであれば、問題ないはずですが」
「いいだろう。手配しよう」
成功の可否は補償できんが。と、これもヒズルは口に出さなかった。
「それで、行くのか御所へ?」
「当然です。これから私の居城になるのですから」
本当に独裁者にでもなるのかとヒズルは呆れる。だが、この男が権力おろか権威すらも手中に収めようとしているのは事実であった。
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