■復活の日より
「岬に設置されたヴラシオの周辺を僕たち四人が囲い魂を送る。その間キリは機体に乗りこんだ状態で最適化をしてほしい。ヴラシオの完成形を知っているのは君だけだからね」
マシロの説明にキリは頷いた。
「僕らはとにかく集中を切らさないこと。通り道をやめた瞬間に下手したら連れて行かれてしまうからね。あと――」
「ニィナ、守りを全面的に任せることになる。あんまり無理はするなよ」
「しなくていい状況ならね」
「もし危なくなったら俺の名前を呼んでくれよ。必ず駆けつけるからさ」
「何それ?」とニィナはクスリと笑う。
「そういうヒーロー的なのは柄じゃないでしょ。あなたって守られてるイメージよ」
「ひどいなぁ」
「レイア艦長やティユイ皇女みたいな戦い方するのかなって思ったら、そうじゃないんだもん。どっちかというと後方から援護していることが多いじゃない」
「ティユイにしろ、レイア艦長にしろ、俺の性格に合わないんだよ」
二人は突撃戦法が得意なのに対して、キリは積極的に接近はしない戦法を採用することが多い。彼はその嚙み合わせの悪さを指摘しているのだ。
「でも、人機の基本は格闘戦でしょ」
「そりゃそうなんだけどさ」
「まあ、でもそうね。ピンチになったら呼んじゃおうかな。ちょっと頼りないけど」
意地悪な笑みをニィナは浮かべる。対して「……おい」とキリは抗議する。
それからニィナは「持ち場に戻る」とキリに告げて、その場を後にしようとする。
「大丈夫。キリが目を醒ますころには全部終わってるから」
微笑を浮かべて、振り向きざまに左手をあげて小さく振る。
「なかなか男の子なこと言うようになったわね」
うんうんと頷きながらレイアが近づいてくる。
「聞いていたんですか?」
「聞こえたのよ。それより大丈夫そう?」
「それはわからない。誰もやったことないことばかりだし」
「そうなのよねぇ。私も経験がないことだからアドバイスのしようがないのよ。だからマシロに任せっぱなしね」
「千年以上、生きていてもそんなことがあるんだ」
「生きているって言っても個体を保つってだけよ。新陳代謝を繰り返して生をやり代えるかの違いでしかないんだから」
――考えてみてほしいとレイアは続ける。長生きしても脳の容量は変わらない。なので覚えていること、忘れることも一緒だ。なので実のところ長命であることにメリットは少ないのだと。
「一つ教えてほしいんですだけど、どうして俺たちを産もうと思ったんですか?」
「コウカはね、ソウジ家を警戒していたのよ。だからいろんな手を打つことにした――という一環ね。これがもっともらしい理由で、もう一つのバカみたいな理由は私との子供が欲しかったってだけ」
大事を行うためには世間的な理由はもちろん。世間の表に出さない理由も必要であるという。どちらも本音でどちらも必要なのだ。でなければ、周辺の人間は協力もしてくれないだろう。
「そういうの私は可愛いなって思ったし、それに……」
言いかけてレイアは少し寂しげな表情を浮かべて首を横に振る。やっぱり言わないというサインであった。
対してキリは敢えて聞くことはなかった。
「俺からの願いを聞いてもらっていいかな」
「言うだけならね。聞いてから考えるわ」
「たまにはシキジョウの家に顔を出してやってほしい。あそこにはあなたの娘と孫たちがいるんだから」
レイアは目を大きく見開いてから、すぅっと息を吸ってからはにかむように困った表情を浮かべる。
「……考えとくわ」
「ニィナはシンク副長の子孫なんだろう。シキジョウの家とは隣同士じゃないか。行っていい理由なんて作るのは難しくない」
キリはふと何かに呼ばれた気がした。
「聞こえたのね。行きなさい、ヴラシオのもとへ」
キリは頷くとヴラシオのもとへ歩きだすのであった。
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