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■東風より彼方から ◎スム、ガレイ

『わかっているだろうな、アイダ・スムよ?』

 声の主はソウジ・ガレイ。もはやスムにとっては地に落ちた男という印象だ。なのに態度は高圧的で自身がどこまでも偉いというのを確信している態度である。


 それがスムからは矮小に映る。

「わかっている。あのヴラシオってヤツを葬ればいいんだろう? 僕に任せておきなよ。それよりあなたも約束は守ってくれよ」


『貴様の望むとおりの世界に送りだすという約束だろう。もちろんだ。違えることなどあるものか』


 ガレイから自分なら与えられるという自尊心の高さが窺える。もっとも現在その自尊心を見せびらかせる相手は限られているだろうが。だからこそ滑稽なのだ。


 もう新生四天王は自分を残すのみだ。あのエリオスも結局は敗北した。他の二人に至ってはそもそも本気であったかも疑わしい。


(結局、僕だけだ。僕だけが勝利者になるべく召喚されたんだ)

 思わずスムの表情に笑みが浮かぶ。


『わかっておろうな。必ず小僧ごと仕留めるのだ』

 わずかにガレイから焦りが窺える。彼が何を恐れているのかがスムには理解できなかった。


(僕が知るかぎり、あのキリとかいうヤツは一番弱い。何を恐れることがある? 僕には強化されたグリオンがある。この世界の連中は間もなく僕にひれ伏すことになる。このソウジ・ガレイでさえもね)


 自分こそ世界の王だとばかりの態度をとるソウジ・ガレイの表情が歪むときがとても楽しみだった。


(僕が気が弱くて言い返さないから偉そうな態度をとりやがって! 小物中の小物の分際で)


 もはやガレイが振るえるのは肥大化した自尊心からくる暴力的な欲望のみだ。それも彼の家系が繋いできた権威をほぼ失った状態である。それはもはやほぼ無力と化している。


 ただしガレイはセイオーム軍総司令の息子のダイトを抱えている。しかし、アージへ派遣したくても反乱軍がオーハンへ向かっているおかげでこちらに派遣できないのだ。


 そこでスムのほうに白羽の矢が立ったというわけだ。彼としても強化したグリオンを試すいい機会と捉えていた。


「……そろそろアージに近づくので通信を切ります。よい報告を期待してください」

『う、うむ。失敗は許さんぞ。忘れるな!』

 

 捨て台詞を言ってからガレイと通信が切れる。それで息が詰まりそうな瞬間が終わり、スムは「ほうっ――」と一息ついた。


「落ち目であれだけの態度がとれるタマは大したものだよ」

 スムは思わず独りごちる。すると今度はヒズルから通信が入っていることに気がつく。


『こちらの目的は達成した。間もなくアージから脱出を完了する』

「それでは遠慮なく暴れていいわけですね。状況によってはアージをも破壊してしまうかもしれませんよ」


『好きにするがいい。それと貴様に言っておこう。もし勝つ気でいるのならヴラシオは覚醒前に仕留めることだ』


「それはどういう意味でおっしゃっているのです?」

『言葉通りだ』

 その言葉にスムの眉がピクリと動く。何かが神経に障ったことを感じた。


「つまり僕は負けると?」

『そうならないように戦えということだ。このアドバイスをどうとるかは貴様に任せるがな』


「このグリオンはもうどんな相手にも負けません。無論、あなたにもね」

『それは頼もしいことだ』


 ヒズルはその挑発的な態度に気が障った様子もなく、澄ました表情のまま「そうか」と短く答える。それがやはりスムの神経に障る。


 未熟なヤツだと言われているような気がしたからだ。それを彼は決して言葉では言い表さない。

(この人はいつもこうだ。僕の何がいけないって言うんだ?)


「まあいいでしょう。アドバイスとして心に留めておきますよ」

『わざわざ口にするほどもない。私に気を遣う必要はない。いずれにしろ貴様とはこれで今生の別れとなる』


「……どういうことです?」

『この戦いが終われば新生四天王は解散する。そうなれば貴様は自由の身だ。……ガレイと交渉したのだろう?』


「ええ。この戦いが終われば別の世界へ旅立ちます」

『貴様は生きるということを勘違いしている。自由であることと身勝手であることはまるで違う。他人がなぜ自身の思い通りに動くことがないのかを考えた方がいい』


「では、勝利の後に考えるとしますよ」

 この初老の男とはどのみち会話するのはこれが最後だ。邪魔をするならば消すまでだ。


「ヒズルさん、いままでお世話になりました」

『ああ、達者でな』


 通信が途切れる。コックピットの中にはもう自分の存在しか感じない。ただ、グリオンからひしめくばかりの統合意思体の思念は感じる。


 それが実体化してスライムのように粘着体が緑色の光を時に発しながら人型の姿を保ったままうねうねと装甲表面を蠢いている。


(僕はこの統合意思体を完全にコントロール下に置いた。もはや恐れるモノはない)

 スムの「くくく」という噛み殺した笑いがコックピット内に漏れるのであった。

お読みいただきありがとうございます。

引き続きよろしくお願いします。

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