■ 禁足地 ◎アスア、キリ
アージは港の近くに山があり、頂上にはナーツァリの霊山にあった寺に酷似したものが建っている。
その建物の周辺では空気というか何かが周辺で揺らいでいるのが目視でも確認できるほどだ。
「すごい魂の総量」と思わずアスアは口に出してしまう。
その山と面する形で海と面するところに突きでた岬があり、その先端近くに石塊のようにしか見えないヴラシオが設置されようとしていた。
アスアは岬から寺のほうを眺めていると、王女たちの会話の輪から離れてこちらへやってくるキリの姿があった。
「どうしたの?」
アスアが訊ねる。
「……ガールズトークがはじまったんだよ」とキリは嘆息をつく。
「そうなんだ」と何となくだが、アスアはあの輪の中に入れないでいた。だから、あの四人の集まりを眺めている。
「無理に馴染む必要はないさ」
キリはそんなアスアの心情を察してなのか、肩に手を置いて言葉をかけてくれる。
「私、何も役に立ってないよね?」
するとキリは「う~ん」と腕を組んで唸りだす。
「……どうして、あなたが悩みだすの?」
「いや、どう答えを返すべきかなってさ。気にするなよって声かけるのは違うだろうし。アスアはいま困っているんだもんな」
「……困ってないわ」
アスアはキリから顔を背ける。果たして自分はいまどんな表情をしているのだろうか。
「その表情は困っていると思うけどな」
キリはニヤリと笑みを浮かべると手を半ば強引にとる。
「ちょっと!?」
「少し離れよう。付き合ってくれよ。許可はとったからさ」
「商業地とかはないのよ?」
「散策くらいは構わないだろ」
「……ちょっと強引だわ」
「ティユイにもよろしくされたしな。世話くらい少し焼いてもいいだろ」
「お姉ちゃんに言われたから、なの?」
それは少し胸にチクリと何かが刺さるような気分であった。
「それだけじゃないさ。お互い、もう少し親睦を深めてもいいだろ」
アスアはキリの手の振りほどいて立ち止まる。
「……どこにも行かないから」
アスアは自信の顔が紅潮しているのがわかった。
「悪い悪い」とキリは苦笑する。
気がつけば開けた場所に出ていた。一見すれば公園のような場所だ。
「ティユイとどうして夢でケンカしたんだ?」
それを訊ねられてアスアは少し答えるのに躊躇する。
「お姉ちゃん、私にごめんねしか言わないんだもん。でも、それって何か違うと思うんだ。だから、ついね」
「なるほどな」とキリは思い当たる節があるような表情を浮かべる。それにアスアは眉をひそめる。
「お姉ちゃんと夢で何を話したの?」
「アスアのことよろしくって頼まれたんだよ。ティユイも言葉足らずなところがあるからな」
「……ホント、そう」
アスアはため息をつく。すると目の前にティユイの姿が目に入る。幻のはず――そうは言ってもその走り去る姿を見せられれば目で追いかけ、やがては足が動きだす。
「アスア!」
キリが呼びかけるもやけに遠くから聞こえた気がした。
「行かなきゃ。お姉ちゃんが呼んでる」
なぜそう思ったのか。それはアスアにも説明ができないことであった。
そして、もう走りだしていた。
キリの声は届かなかった。
「待ってて。すぐ行くから」
アスアは気がついただろうか。その方向に山寺があることに。
一方で気がついたところで彼女が足を止めたか。それは誰にもわからないのであった。
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