■アージへ ◎リルハ、セイカ、アズミ
ファランドールの出港の準備は整いつつあった。艦までの桟橋付近にリルハとセイカ。それからアズミの姿があった。
「本当ならついて行ってあげたいけど」
リルハをセイカは力強く抱きしめる。
「私なら大丈夫だから。お姉ちゃんこそ体をいたわってね」
するとセイカは体を一旦離してリルハの両頬をつねる。
「痛いよ……」
「私が気づかないとでも?」
セイカはリルハのお腹のあたりに視線を落とす。
「命がけなんて関係ないから。必ず帰ってくること。いいね?」
セイカはそう言って再びリルハを抱き寄せた。
「……ん。わかったよ。帰ってきたらまた抱きしめてほしいな」
「ああ、もちろんだ」
セイカはリルハの頭を下げる。
「リルハ、お前には苦労をかけている。巫女の役目がここまで重くなるなど思いもよらなかった。私はお役目とはいえ命の危険はないだろうと気軽に受けてしまった」
アズミは申し訳なさそうに謝罪する。対してリルハ首を軽く横に振る。
「いいんだ。キリやニィナと一緒にいられるようになって私は嬉しいから。それにキリの助けになりたいんだ」
「彼の支えになると決めているのだな。大変だぞ」
「うん。でも、頑張ってみる。兄さんこそ無事に帰ってきてね、お義姉さんも待っているんだから」
アズミは黙ったまま微笑を浮かべて頷く。そこより少し離れたところでキハラとマシロが話をしているところだった。
「姉上と呼んでもいんだよ」
「……言わねえよ。一応、あんたのほうが年下だろうが」
キハラは呆れかえったような口調だ。
「もう、姉上姉上と困らせることもないんだね。成長したということか」
「これも変かもしれないが、気をつけてな」
「ありがとう。ヤマシロの人たちは私を快く受け入れてくれたのも君に働きのおかげだ。僕はお役目を果たしてみせると伝えておいてほしい」
「俺たちのほうも巫女の重役を受けてもらって感謝している。ずっと空位のままだったからな。でも、アージでやろうとしていることは本当に大丈夫なのか?」
「……一歩間違えれば死ぬこともあるだろうね。それでもやろうって四人で決めたことだから」
「俺も止める気はねえよ。でもよ、また帰って話そうぜ。姉上の話が聞きたいからな」
「うん。また話そう」
「カリン王女、お気をつけて」
「ホノエさんこそ、大変な任務だと聞いています。お大事になさってください」
ホノエとカリンがキハラとマシロの傍で話をしていた。
「クラシノの方にはいつもお世話になりますね。私がこうしていられるのも皆さんのおかげです」
「いえ。我々としては心苦しいかぎりです。あなたのような少女に結果として大役を押しつけてることになってしまった」
「私のことは大丈夫ですよ。結果的にキリさんやいろんな人に出会えて私は良かったと思っていますから」
「そう言ってもらえるならば」
困ったようなホノエの顔を見て、カリンはクスリと笑う。
「それではそろそろ乗艦の刻限が迫っていますので」
「ええ、気をつけて」
そう言ってカリンはファランドールへ向かっていく。それについて行く形で他の四人の王女も歩きだす。
しかし、その途中でピタリとユミリが足を止めてルディに声をかける。
「ルディ」
「どうした?」
「私ね、昔はルディのことが好きだったんだと思う」
「ああ」とどう答えていいものかルディの声音には逡巡の色が見える。
「それでもお姉ちゃんとならって、何も言わないでおこうって思うとった。でも、せっかくやし言うとこう思う。お姉ちゃんのことありがとうね」
それだけ言うとルディの返答も聞かずにユミリは走り去って行く。
「俺たちも行こうぜ」
四人の王女が乗艦したのを確認するとキハラはいつまでもファランドールのほうを見ているルディの肩に手を置く。
「ああ、わかった」
ファランドールが出港をはじめる。それは戦いのはじまりでもあった。
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