■集い ◎ユミリ、セイカ、ルディ
「夕べはお楽しみだったようで」
セイカはからかうような笑みを浮かべている。
「何言うとんよね。まったく」
ユミリは頬を膨らませる。からかわれたことが不満だったからだ。
朝食後に二人は談話室で話をしているところだった。
「義手の調子いいん?」
「前にも言ったけど、よく馴染んできたよ」
セイカはは右手をユミリの目の前で握ってみせる。見た目はとてもではないが、義手には見えないし、動きも機械的な不自然さも感じさせない。
「利き手やったんやろ?」
「……そうだね。昔のようにとまではいかないかな」
やはり利き手だった部分が義手になったせいなのか、少し違和感を感じるとのことであった。
「それでも幸せそうやん」
「そうだね。おかげかよくしてもらっているよ。ルディやユミリのおかげだね」
フッと笑みを浮かべる姿にユミリはたまにドキリとする。セイカは無自覚ながら、たまに同性からしても魅力的な雰囲気を醸し出す。
「ルディとセイカがこんな関係になってるとは思わんかったわ」
「人生、何があるかわからないものだよね」
「……あんたがそれ言うんかいな」
自分から誘ったのだろう白々しいとばかりユミリは半目になる。これは旗色が悪いとセイカは話題を変えてくる。
「それにしてもキリくんがそう言ったのかい? 戦場から帰ってくることを約束などできないと」
「あそこで言うセリフやないと思わん?」とユミリは唇を尖らせる。
「彼なりの優しさなんだろうね」
セイカは少し遠い目をする。
「キリの肩持つんや」
「そんなんじゃないよ。ただ従軍していた身としては理解はできる」
「ふうん?」
「けじめなんだよ。自分が帰って来なかった時にユミリが選択肢を持てるようにってね」
それは帰ってこなかった場合、自分のことは忘れていいということであった。それをキリから言われてユミリの気持ちが揺らいだ。
「でも、死亡確率のほうが低いやろ?」
「ソウジ・ガレイ閣下が敵となれば話は変わってくる。何せ現状でも手段を選んでこないんだ。生還率はさすがに下がるだろう」
――それだけではないだろうがともセイカはつけ足す。
「おそらく終わらないんだろう。清算が……」
何がというのははばかられる話だろうか。ユミリは敢えて訊ねることを避けた。
「だからこそキリの帰ってこれる場所を用意しておかないとね」
二人の会話に入ってきたのはマシロである。他にカリンとリルハもいる。
「三人揃って、どうしたん?」
「これからヴラシオにパーツを取り付けるみたいで、ユミリさんも一緒に見に行こうって誘いにきました」
それに答えたのはカリンであった。そのあとにリルハが口を開く。
「そんなに面白いものじゃないって言われたけどね」
「そういう割には三人とも行くんやね」
「キリさんとニィナさんが立ち会うっていう話なので」
――それでか。とユミリは納得する。
「そういうことやったら私も行かんとね」
「というわけだ。セイカ嬢、君はどうする?」
「私は遠慮させていただくよ。体に障るといけないからね」
セイカはマシロからの誘いを丁重に断りつつ、自分のお腹を撫でる。
「私は留守番させてもらうよ」
にっこりと笑みを浮かべてセイカは四人を見送ると、入れ替わるようにルディが入ってくる。
「どうしたんだ、四人が一緒に出て行ったが?」
「さあ、どうしてだろうね」
セイカは笑顔を浮かべる。
「次の任務が決まった。休暇もそろそろ終わりだ」
「そうか。しばらく会えなくなるね」
セイカはわかってはいるものの寂しい気持ちを抑えられない。
「そうなる。だが、その前にジルファリアとベルティワイザーの模擬戦が行われる」
「相手はお兄様になるんだろうね」
ルディは頷く。
「もちろんルディを応援するよと言いたいところだけど、試合中に気が変わっていたら許して欲しいな」
「……俺の勝利の女神になるつもりはないと?」
少し拗ねたようにルディは唇を尖らせる。
「こちらとしてはどちらにも負けてほしくないところだからね。選ぶというのは大変なんだよ」
「ならば、この勝利を君に捧げてみせよう」
「お兄様は手強いよ?」
「わかっている……」
そう言いながら二人は接吻を交わしたのであった。
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