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此方より幻想へ。彼方より現実へ。~皇系戦記~  作者: あかつきp dash
第一四話 蒼、揺蕩う国より
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■アスアの苦悩 ◎キリ、ポリム、アスア

 月明かりがあたりを照らす頃である。ヴラシオ・ラグアの格納庫にキリは一人来ていた。

「ポリム、あの夢はお前の仕業だったのか?」


「せっかくの祭り囃子に僕も参加させてもらっただけさ」

 月明かりのような光を放ちながら一羽の小鳥がどこからともなく現れて、キリの右肩に乗る。


「あれはティユイだったのか?」

「違うといえばいいのか、それともそうだと言って欲しいのかい?」


 化かすような口ぶりにキリは辟易する。

「ティユイは肝心なところを言ってないよな。彼女はこれ以上復讐心を掻きたてるようなことを嫌がった。つまり家族や身のまわりの人が傷つくことを何より嫌がったんだ。でも、その中に自分がいない。自身が傷つけられたことについて彼女は何も語っていない」


 するとポリムは「ふむ」と少し考える素振りを見せる。

「仮にティユイの企みを知ったとして君は何かをしようというのかい?」


 キリは首を横に振る。

「……いや。それを止める権利は俺にないだろうし、おそらくそんな間も与える気はないんだろう?」


「どうだろうね」

 ポリムは肩をすくめる代わりに首を何度も横に振る。


「俺はソウジ・ガレイがティユイにやったことのすべてを知っているのに憎みきれないでいる」

 自らの弱さを知っているのに相変わらず認められないでいる。


「世の中、復讐心に身を焦がし続けられる人間の方が少ないんだ。君は特別じゃないってだけで、珍しい話じゃないよ」


「……どちらが楽なんだろうな?」

「きっと君のような考え方が幸せなのさ。憎しみの炎をくべるためにいつまでも薪を入れ続けなければならない。くするぶだけではいつかき消えるか不安になる。そして、いつの間にか目的すらも忘れる」


 その地獄へと身を費やす覚悟はあるのか。あったとしても大半の人間はすぐに潰えるとポリムは断じているのだ。ならば生半可ないまのキリくらいの憎しみを持つ方がいいだろうと。


「それにキリが目指すべきはそういう人間じゃないはずだよ」

 キリは決意の宿った瞳をポリムに向けたまま黙って首を縦に振る。


「キリ、誰と話をしているの?」

 格納庫に入ってきたのはアスアであった。


「ラグアの妖精みたいなものだよ」

 こんな話の仕方でいいのだろうかとキリは思うが、ポリムは乗り手にしか姿を現さないのだ。なので存在を共有できない。だから、このような説明になってしまう。


「アスアこそ、こんな夜更けにどうしたんだ?」

「キリがここへ行くのを見かけたから」


「そうだったか」

 キリはしまったとばかり頭を掻く。


「アスアはよくヴラシオのところにいるよな」

「よく知っているんだ。ヴラシオの妖精にでも聞いたの?」


「そんなところかな。アスアはどうしてここへ?」

「前にも言ったでしょ。お姉ちゃんを感じていたいの」


 唇を噛みしめて切実そうな表情を浮かべるアスア。

「……夢の中で出会ったのか」


「うん」とアスアは頷く。

「でもね。ケンカしちゃったの。謝りたかったのにね……」


 乾いた笑いの目には何かが光る。

「それじゃ私行くね。キリも夜更かしはダメだから」


 キリが話をする前にさっさとその場を走り去ってしまう。

「どういうことなんだ?」


「ちょっとティユイが言葉足らずなんだよ。アスアが欲しかったのは謝罪ではなかったということだね」

 どういったやりとりがあったのかキリには想像するしかできない。


「俺はどうすればいいんだ?」

 そういえば任されてしまったことを思い出す。


「シシャ(死者)にこだわりすぎるのは危険なようにあるけどね」

「だからって……」

 すぐに危険が及ぶようなことがあるだろうか。


「夢での接触によって結果的に彼女を追い詰めてしまったね」

「俺に何とかできるのか?」


「少なくとも夢の中のティユイにはできなかったね」

 事実だけを述べられてもとキリは顔を引きつらせる。


「ティユイはアスアを助けたくて自分を犠牲にしたんだ。その思いだけは汲んでやってほしいかな」


「やってみるよ……」

 そうは言ったもののまるで自信は沸いてこない。あるのは不安のみだった。

お読みいただきありがとうございます。

引き続きよろしくお願いします。

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