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此方より幻想へ。彼方より現実へ。~皇系戦記~  作者: あかつきp dash
第一四話 蒼、揺蕩う国より
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■模型部の部室からの目覚め ◎キリ、ユミリ

 学校へ戻ってきたキリとユミリは模型部の部室へ入る。しかし、そこにはもう誰もいない。それなのに鍵は開いていた。何とも不思議な話だ。


「前も思ったけど、ちょっと不気味な部屋やんね」

「ああ、何もないのにずっと誰かに見られているみたいな」


 それは部室の棚に飾られている模型から発せられている。いや、この部屋そのものが異質なのかもしれない。


「ようこそ。お二人とも」

 突然、入り口の方から声がした。それはティユイである。


「ティユイ?」

 キリが思わず名前を呼ぶ。


「はい。それとごめんなさい、ユミリ。用事があるはキリくんのほうなので。あなたは先に目覚めていてください」

「え?」


 ティユイが右手の指をパチンと鳴らすとユミリは声も出せずに姿を消す。それにキリは目を見開く。

「何を!?」


「言いましたよ、用事があるのはキリくんだと」

「言ったけど!」

 キリはティユイを混乱してしまい叫んでしまう。


「目が覚めるだけですから、安心してください」

 ティユイが落ち着いてと言いながら席に座ることを勧めてくる。


「何が狙いなんだ?」

「あなたに会いたいと思っただけかも」


 キリが渋々席に座るのを確認したティユイは意地の悪い笑みを浮かべながら席に座る。

 何となくだが、このティユイは信用できるような気がしたからだ。


「どうしてこんなことを?」

「ちょっと接触を試みたこともありましたが、あれは失敗でした。あなたを殺しそうになりましたから。それで夢の中で接触するのがいいかなと」


 あれというのはナウタでの一件のことか。

「ティユイは死んだのか?」


「死んだ人が答えるのって適切かはわかりませんが、概念的にはそうです。祈りを捧げることで私はその生きる力をラゲンシアに注ぎましたから」


「だからってラゲンシアがヴラシオに変わるものなのか」

 ティユイは頷く。


「はい。人機へ巫女の祈りが蓄積されて遂にはヴラシオへとなるのです」

「……いまさらだけど、どうしてヴラシオなんだ?」


 ヴラシオというのは地球へ落ちた彗星の名前ではないかと。

「ヴラシオという彗星が地球に向かって落ちてきたのは定説ですが、実際は違うという話があります。地球が巨大な情報体であるヴラシオに引き込まれていったと」


 そしてヴラシオは世界を象徴する名になった、と。

「クエタの海に日の光はあれど太陽がありません。日の光とは世界そのものです。象徴となる存在に同じく彗星のごとく光を放つ存在と同じ名前が必要となったのです」


「だから、その日の光に名を与えん――ヴラシオと」

「はい。そのヴラシオに乗るのはあなたです、キリくん」


 ティユイの手元に黄金に輝く手のひらサイズの模型が現れる。

「これがヴラシオです。このイメージを刻みこんでください」

 ラゲンシアと姿は少し違う。小柄になって姿がより女性的になっているようにある。それでも背面の両翼スラスターは健在だった。ディティールは踏襲されているということだった。


「ヴラシオはあなたに返しますね」

「……わかった」とキリは差し出されたヴラシオを受け取る。


「あなたにはつらい思いをさせましたね。でも、ヒズル様はあなたを本気で殺すつもりでしたから。やむを得ずです」


 もしそれでキリが殺されていた場合、ティユイは復讐の炎をより燃やすことになっただろう。それはティユイの本来の望みとはほど遠いものだ。これ以上、辛い記憶を刻むのは嫌だった。


「でも、俺はそれでもティユイと一緒にいたかった」

「あなたと過ごした時間はとても楽しかった。大丈夫、あなたは私のことを守ってくれましたよ」


 それは戦いだけではないのだ。日々の生活の中でつらいことがあってもそれさえも一緒にいてくれた。何よりずっと一緒にいようと言ってくれたこと――それがティユイにとっては嬉しかったと。


「アスアちゃんのこと、よろしくお願いしますね。あの()、強情でなかなか気持ちを表に出さないので」

「……わかった。アスアのこと引き受けるよ」


「キリくんはもう平気ですか?」

 そう聞かれてキリは頬を掻く。それから意を決したようにティユイをまっすぐ見つめ返す。


「平気じゃないけど、たぶん大丈夫だ」

 だから安心してくれと。それを言うとティユイの満面の笑みが浮かび、それから周囲が暗転していった。


 ――キリ!


 キリが目をゆっくり開けると目の前には目に涙をためたユミリがいた。

「……ここは?」


 上半身だけ起き上がると同時にユミリが抱きついてくる。

「なんで、あんただけ起きてこおへんのよ。お姉ちゃんもみんなおらんくなって、キリまでなんて耐えれへん」


 それがひょっとしたら自分のせいかもしれない。その事実に耐えられないと彼女は告白した。


「大丈夫だ。俺はここにいる」

 ――ここにいるから。とキリは言いながらユミリの頭を撫でた。


「そう思うんやったら、私を置いてかんといて!」

 するとキリの表情は真剣であり少しもの悲しげになる。


「その約束はできない。俺がヴラシオに乗るってことは戦場に出るってことだ。だから生きて帰ってこれるなんて保証はできない。……だから、ごめん」


「やっぱり、あんたはバカやよ」

「……わかってるつもりだ」


 それから部屋に多くの人たちが入ってきて、キリは大いにからかわれることになるのだった。

お読みいただきありがとうございます。

引き続きよろしくお願いします。

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