■放課後の帰り道 ◎キリ、ユミリ、マシロ
キリとユミリが校門のほうへ向かって並んで歩いていると「こっちだよ」とマシロが手を振ってくる。
「マシロ、どうして?」とキリが訊ねる。
「うん。僕もここが夢だと自覚ができたんだ」
ここで話のもということで三人は近くのファミレスで話をすることにした。
「実はこの夢世界にフラグブレイカーがいる」
マシロの告発に「フラグブレイカー?」とキリとユミリの声がハモる。
――フラグブレイカー。たとえばキリの朝の出来事から順を追っていく。
今日の朝、本来であればニィナはリルハと一緒にキリの家まで学校へ案内するため迎えに来てくれるはずだった。
ところが、キリは目覚ましを予定より早くかけてしまった結果、登校時間が早まった。それで二人とはすれ違った。ニィナの機嫌が悪かったのはそういうことだったらしい。
それから曲がり角でカリンとぶつかる。そこに通りかかったマシロの自転車を借りてカリンを学校まで送る。本来であれば、自転車はとある理由で壊れる予定だった。それからマシロとの関係がはじまり、カリンはキリにお礼を伝えるために校門の前に待っているはずだった。
「自転車は壊れていないし、カリンが校門前で待っていない」
その事実をキリが伝えるとマシロは頷く。
「まあ、おかげで僕はこれが夢だと自覚できたわけだ」
フラグブレイカーとはどうやら起こるはずのイベントが起こらないということを意味するようだった。
「フラグブレイカーって何が問題なん? 特に誰も困ってないやん」
そのユミリの疑問はキリももっともだと思えるものであった。
「そもそもとして運命的な出会いを演出したいというのは要するに荒唐無稽な出会い方がいいという解釈に基づくものだ。それは自己都合も入り交じっているけど、それ以外にも様々な意図が組み合わされたものだ。これが夢の中で人々が繋がっているという証左でもある」
「つまり自己都合は優先されない――それって現実と大差なくないか?」
では夢とは何なのかという疑問がつきまとう。
「干渉しあうということは意味が常に変質していくということ。思考とは過去に遡るという行為であり、僕らは常にやり直しを行っている。つまりは夢や空想といったものは現実の延長線上に存在しているものだ。幻でもただの妄想でもない」
マシロはそう言いながらキリの表情がキョトンとしていくことに気がつく。
「どうしたんだい?」
「マシロは一四歳っていうけどさ。こう知恵袋的というか、実際巫女たちのリーダーというか参謀的な立場に納まっているだろ。何でだ?」
マシロはしばし考えこみながら、やがて口をゆっくりと開きはじめる。
「僕が一四年しか生きていないのは事実だ。一方でここでは五〇〇年が経過していたのも事実。この場合、僕は五〇〇年経過したほうの時間軸に合わせることになっているはずだ」
「やっぱり五〇〇歳やん」
ユミリの心ない指摘にマシロが頬を膨らませる。
「僕を老婆のように言うのはやめてくれないかな」
「話が逸れてすまない。それでフラグブレイカーが誰かはわかっているのか?」
「うん。もったいぶる必要もないと思うから言うけど、フラグブレイカーはティユイ皇女だよ」
やはりというかキリは妙に納得する。
「フラグブレイカーに狙いはあるのか? いや、そもそも――」
考えなどあるのかとキリはふと思うのだ。
「どうだろうね。少なくとも僕の願望は叶わなかった。この中で都合よく事が進んでいるのはむしろユミリじゃないかな」
「私?」とばかりユミリは自身を指さす。
「実際、他の王女たちのフラグは折られたじゃないか。その中で君のフラグはまだ生きている。おそらくフラグブレイカーはユミリを目覚めさせたくないんじゃないかな」
「なんでやろ?」
「ユミリの願望はほぼ叶っているんだよ。君がここにいる時点でね。あとは目覚めを待つだけ。なのに君はここにいる。それは君にとって居心地のいい世界が構成されているからだ」
「そうなるとどうなんだ?」
「必然的に繋がりの強いキリも目覚められないってこと。ひょっとしたらこっちが狙いなのかも」
「その話だと俺のほうが狙いのように聞こえるぞ」
「実際、そうかも。まあいずれにしろティユイ皇女にもう一度接触することをオススメするよ」
それでふとマシロはハッと何かに気がついた表情をすると、弱々しく笑みを浮かべる。
「どうやら僕はこれを君に言うために遣わされたってことなのかもしれないな」
マシロは咳払いをする。
「二人ともよく聞いてほしい。これから認識阻害によってキリとユミリは僕らのことを認識しなくなる。逆もまた然り」
「つまり?」とキリが聞き返す。
「こうやって接触できるのもこれが最後ってこと。たぶんティユイ皇女との接触がカギを握っているはずだ」
「え、マシロは手伝ってくれへんの?」
ユミリは驚く。
「ごめんね。僕の役目は終わったんだよ。というわけで頑張れ」
その言葉とともにマシロの姿は消える。おそらく認識阻害の影響だ。
「それじゃあ行くか」
「どこへ?」
「ティユイのいるところ。たぶん学校にいるはずだ」
席を立ちあがりキリはそう言った。
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