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此方より幻想へ。彼方より現実へ。~皇系戦記~  作者: あかつきp dash
第一四話 蒼、揺蕩う国より
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■再会とそれからと ◎アズミ、セイカ、キリ

 スヴァンヒルトとレギルヨルドがカミトに寄港することになりファランドールと並び、近年建造された新造艦がこうしてそろい踏みしたことになる。


 レギルヨルドは接岸すると乗降口に桟橋が架けられる。桟橋は人が一人通れるくらいの横幅しかなく、安全装置も振り落とされないよう左右にそれぞれ手すりがつけられているくらいだ。そこから最初に出てきたのはアズミでだった。


「お兄様!」

 セイカが駆け寄ってくるのを見て、アズミは後ろが少しつかえているのを確認すれば気持ち急いで桟橋を降りる。


 降り口から少し離れたところでセイカは待っていた。

「義手の具合はどうか?」


 セイカの右手は義手と言われても初見ではまず気づかないだろう。本人はまだ馴染んでいないということらしいが。


「だいぶ馴染んでまいりました。この調子なら近いうちにも戦場へ戻れそうです」

「勇ましいことだが、いまのお前がやるべきは戦場へ赴くことではない。それとも私を困らせたいのか?」


「いえ、お兄様の元気そうな姿を見たら心が騒いでしまったのです」

「結局は私のせいということになるな」


 思わずふっとアズミから笑みがこぼれる。

「カミトでの生活は慣れたか?」


「ええ、おかげさまで。それこそよくしてもらっています」

 セイカがサカトモの家系というのもあるだろうが、ルディの一族の気質がそうさせるのだろうとアズミは察した。


「何か変わったことはあったのか?」

 それにはセイカはまわりを気にしだして言い出せない様子だった。


「まずは他の方と合流しましょう。ここでは話しにくい内容のうえ」

 そう言っているとキリ、ニィナ、それにリルハが降りてくる。


「セイカ様、ご無沙汰です」

 ニィナが最初に声をかける。


「ニィナも元気そうで何よりだよ。さあ、車両の準備はできているから話は中でしよう」

 セイカはここで会話をするのは本当にまずいと考えているようだった。なのでキリたちは車両に乗りこんで動きだすまで会話を敢えて避けた。


「セイカさん、カミトで何があったんですか?」

 キリの問いにセイカは一度頷き、それから答える。


「ユミリ王女が昏睡したまま目を醒まさないんだ」

 それもカミトへ帰ってきてからずっとだという。


「原因はわかっていないんですか?」

「はい。唯一わかっているのはユミリ王女の時間の進みが極端に遅くなっているということだけです」


 それもどうしてかまではわからないのだという。

「じゃあ、いま俺たちが向かっているのは?」


「カナヒラ邸だよ。私もお世話になっているんだ」

 車両はセイカの言う場所まで向かっているということだった。


「古来よりこのパターンだと意中の男性の接吻で目覚めると相場が決まっているものだが?」

 そこでアズミがちらりと意味深にキリに視線を向ける。


「兄さん、私の前でそれ言う?」

 リルハが唇を尖らせる。


「そうですよ。カリンとマシロもこっちに乗りたがったんですから」

 ニィナは自分はさておいてとばかり話すが、少しばかり言葉に棘が含まれているようにある。それをセイカはおかしく感じた。


「すまない。私はあくまで一般論を言いたかっただけだ。君たちへの配慮に欠けていたことは謝る」


 今度は皆がキリを見る。

「……勘弁してくれよ」


 これがキリが発言できる限界だった。誰彼に比重を置いておもんばかるとはいかなくなりつつある。

「君も苦労しているようだな」


「別にユミリや皆のことを手段にしたくないだけですよ。……それでも自分が何をやっているかくらいはわかっているつもりです」


 前回、マシロからキリがやっているのは恋愛ではなく政治と言われたことを気にしての発言だった。


 一見すれば本音と建前のようにもあるが、キリからすればどちらも本音であり建前でもあった。結局のところは裏表の話でしかないのだ。


「わかっている。君は割り切れない質だから、そうやって悩むのだろうからな」

 アズミは噛み殺しながら「くくく」とおかしそうに笑う。キリは対照的に気苦労の絶えない思いため息をつくのである。


お読みいただきありがとうございます。

引き続きよろしくお願いします。

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