■御前試合の観覧席より
御前試合そのものが儀礼である。まず戦場となる会場に三国を代表する巫女が神事を執り行い、その見届け人として皇子の立場としてキリが席に座る。
「俺、これ苦手なんだけど」
ここにはない視線までがキリへと向くことがある。それは何とも居心地のいいものではない。
「普通の人なんだから、それでいいのよ」
隣りにいるニィナが「あきらめろ」と助言をしてくる。それが助言なのもきりは苦笑いするしかなかったが。
三人の巫女が観覧席に戻ってくる。いつもと違う巫女の清掃に少し化粧をしているためかいつもより大人びて見える。
巫女服はいわゆる和装の袴をそれぞれの国の色に合わせた配色で着ていた。
「ふふふ、見惚れてたね」
マシロは不敵に笑みを浮かべる。
「普段と雰囲気が違うんだから、いいだろ……」
化粧だけでこうも変わるのかとまじまじ見過ぎてしまったようだ。それをマシロにおちょくられている。
マシロはキリの背中にまわって抱きついてくる。
「うまくやれたかな?」
「ああ、うまくやれてたよ」
「マシロさん、引っつきすぎですよ」
カリンが不服そうな顔で訴える。
「マシロ、私たちは指定された席にいないと」
リルハはマシロの座る席を指さす。マシロは露骨に不機嫌な顔になる。案外と感情が顔に出るほうである。
「じゃあ、私はキリさんの隣りでもいいんですか?」
「カリンにはその権利があるからね」
「やった」とカリンはニィナの反対側――キリの隣に陣取った。
「キリは私らの誰かを選べないんだから、ちょっとは考えなよ」
「そうなると政治じゃないか。僕は愛してもらえるお嫁さんになりたいんだよ」
「リルハはそうじゃないの?」と問われたような気がしてリルハも思わず黙ってしまう。
「はい。ストップ。ここで言い合いはなしだから」
ニィナが割って入る。正妻がこう言うのだから二人とも引き下がるしかない。これもやはり政治である。
――何が楽しいんだか。と、思わずニィナはため息をつきたくなる。だが、マシロがこうすることで黙るしかないキリの立場を代弁してくれている。
マシロもただ傍若無人にしているわけではないはずだ。はずだが、どこまで計算なのかはわからない。
「ベルティワイザーとガナウィルク。どちらも素敵な機体ですね」
趣があるとカリンは評する。
「花鳥風月はご存じですか?」
別の方向から問いかけがくる。それは赤ん坊を抱いたチオルであった。
「えっと、美しいものを表現するときに用いる言葉でしょうか?」
カリンが首を捻りながらも答える。
「概ね合ってますよ。四国の人神機にはその言葉があてがわれてデザインが成されていますから。自然界に存在する美しいものを表現した結果、あの美しい姿が生まれたと聞きます」
「へえ」と一同が感心した声をあげる。
「して、その乗り手であるアズミ殿の調子は?」
そこにホノエが現れる。
「今日は調子がいいはずですから、おそらく負けないかと」
「それは聞き捨てなりませんね」
ホノエの隣にはマコナがいた。
「キハラも絶好調です」
「あらあら」から「まあまあ」と二人の女性が視線で火花を散らせる。
座る席を間違えたなとホノエは心底後悔するのであった。
お読みいただきありがとうございます。
引き続きよろしくお願いします。
感想、評価、お気に入り登録も今後の励みになりますので、ぜひお願いします。




