■王宮へ ◎キリ、ニィナ、リルハ
「だ~れだ?」
王宮へ着くなりキリの首筋に両手が当てられる。
「冷たっ!」
その手が氷のように冷たかったのでキリは思わず叫んでしまう。
振り返るとそこにいたのは悪戯が成功して喜んでいるリルハであった。
「ひさしぶり」
「これは反則だろ……」
キリは困り顔で首筋をさすっている。
「隙が多いんだよね、キリは」
リルハはしてやったりという表情だ。
「リルハが出迎えなの?」
ニィナは驚いているような呆れているような口調である。五カ国会議の件があったというのに不用心だと言いたいのだろう。
「『変な動きをしている連中はいない』ってお兄ちゃんが言ってたよ」
「アズミさまはこちらにいないの?」
「うん。軍の司令部に出向かないとって」
フユクラードへ帰還が叶っても忙しいようだ。五カ国会議以降、国内の情勢は乱れていると聞く。アズミはそれに奔走されているのではないだろうか。
「王宮ってあまり馴染みないのよねぇ」
ニィナは落ち着きなくあちこちに視線をさまよわせている。
王宮というのは式典などの行事を行う場所として建造されている。そのため寝泊まりするための設備は設けられているものの、王族たちは基本的に街中で生活をしている。
生活感がないのはそのためである。
王などになれば話は別であるが、継承権だけでは王族にはなれない。それは継承権を持つ者が順位はあれど数が多いからである。
アズミはたしかに継承権はあるが、順位は相当低いほうだ。そのため存命中であってもよほどのことがないかぎり王にはなれないだろう。
ここで少しややこしいのがリルハのような巫女を兼ねた王女の存在である。
彼女たちは各国に必ず一名は存在する。しかし、現国王と直接の血縁がないというのがほとんどだ。
巫女は王族に連なりにある者が選定される。その選定方法は各国でもやり方は違う。リルハのサカトモという継承権が末席の家系であっても巫女に選定される可能性は十分にあった。その時に王女という立場も付与されるのだ。
ちなみに王の娘は王女であり、息子は王子である。また、その正妻は女王となる。国王は男系が継ぐというのはかつてからの慣例となっていた。
「私にとっては職場みたいなところなんだけどね」
リルハは巫女として王宮に通うことは多い。それこそ国王に次いでだろう。式典に表だって出るのは間違いなくリルハの役目だ。
「今日はどうして王宮へ、俺たちを呼んだんだ?」
キリの質問にリルハは「どうして?」みたいな表情になっている。
「キリも手伝ってもらうから。いま国王が不在でいろんな式典が止まっているんだよ。私がいればできることもあるから。次期海皇のキリにも手伝ってもらおうと思って」
「聞いてないぞ」とキリは抗議する。
「だって、いま言ったもん」
それから「ついてきて」とキリとニィナを建物内に案内する。内装は王宮と言うより寺院とか神社とかの雰囲気に近い。
案内された部屋には眠っている赤ん坊と母親らしき女性がいた。
「紹介するね。お兄ちゃんの奥さんチオルさんと子供のアツマだよ」
続けてチオルに対してキリとニィナの紹介をする。
綺麗な女性だったのでキリは緊張した面持ちで頭を下げる。
「いつも夫がお世話になっています」
チオルはニッコリと微笑んだ。キリはいままで接してきた女性とはだいぶ違うというのもあってドギマギしている。
それをニィナとリルハは面白くなさそうに見ている。鼻の下を伸ばしてるわけじゃないんだからいいだろうとキリは悪態をつけないため悶々としているのであった。
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