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此方より幻想へ。彼方より現実へ。~皇系戦記~  作者: あかつきp dash
第一三話 黒、稜々たる国より
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■帰郷 ◎キリ、ニィナ

「今日はウチで夕飯食べていくよね?」

 私服姿のニィナがやってくる。ニットセーターにロングのスカート姿の幼馴染みをキリはまじまじと見つめてしまう。


「どうしたの?」

「今日は落ち着いた服装してるよな」


 キリはソファの背もたれから少し身を乗りだすが、それでも立っているニィナを見あげる形になってしまう。


「……どういう意味よ?」

「普段は案外大胆な格好してるじゃないか」


「いま冬だからね」

 窓から見える冬景色を指さしている。先ほどから雪が降りだしていた。もうこんな季節なのかとキリは感慨に耽ってしまう。少しティユイのことを思い出してしまったのだ。


 するとニィナが隣りに座る。距離は意識したうえなのだろうが、膝と膝が触れあうくらいの距離だ。


「この家にくるのも久しぶりだよな。おじさんもおばさんも元気そうだった」

「二人とも心配してたんだからね。男の子供いないからキリのこと息子みたいに思ってるって言ってたもん」


 おそらく家を飛び出したあの時のことだろう。思えば一年以上顔を見せていないのだ。

「それは悪いことをしたな」


「ついでに泊まっていってくれると嬉しいって」

「え?」と声をキリは思わずあげてしまう。そして、その意味をつい深読みしてしまうのだ。


「ちょっと変なこと考えないでよね」

 ニィナは顔を少し赤らめながら体を少し離す。


「じ、自意識過剰なんじゃないか?」

 照れ隠しでつい言ってしまったのがまずかった。ニィナはあからさまに不満そうな表情を浮かべる。


「ふ~ん。そういうこと言っちゃうんだ」

 マシロやカリンのことを思い浮かべてしまう。


「……悪かったよ」

 キリはすぐに謝った。その後に思わずため息をついてしまう。


「ため息で減点ね」

「申し訳ありません」


 端から見ればこんな姿もじゃれ合っているようにしか見えないだろうが、本人たちは至ってまじめである。


「一つ聞きたいことがあるんだけど、いい?」

「もったいぶたれると身構えちゃうだろ。言ってくれよ」


「あなたとヒズルってどういう関係なの? キリからすれば皇女を奪った憎い相手でしょ。たしかにヒズルから向けられている殺気は本物だし、キリもそれは同じだ。でも、二人からそれ以外の何かを感じるのよ」


 実際にキリとヒズルが戦いはじめると周辺から割って入るという行為は一切しない。二人の戦いに手出しをしてはいけないような空気があるからだ。


 するとキリは真剣な眼差しでニィナを見つめる。

「な、何よ?」


「ニィナって俺より俺のことを考えてくれてるんだなってさ」

 そう言われてニィナの顔は一気に紅潮する。


「ば、ばか! もう行くから!」

 あまりに照れくさくてニィナはいられないと思って立ちあがろうとすると、キリがその手を掴んで引き留める。


「聞いてもらっていいかな?」

 その表情は懇願に近い。これを見てニィナは先ほどの照れくささが遠のいていくのを感じた。


「ヒズルやガレイに対して憎いという気持ちは否定しない。でも、地の果てまで追いかけて復讐を果たしたいっていう気分にはとてもじゃないけどなれない」


 それはそれ以上に自分への無力感のほうが強いせいかもしれないとニィナは察する。

「あの状況であなたを責められる人なんていやしないわ。それを言うと私だって駆けつけられなかった」


「あの状況はああなるように仕組まれていた。誰もが敵の術中にはまっていたんだ。だから、それこそ言いっこなしだろ」

 それはそうだろうが、それでもニィナに後悔がないわけではない。


「ヒズルと戦っていると不思議な気分になるんだ。たぶん、俺の親父とかの記憶なんだろうな」

「師弟関係だって聞いたけど」


 それが関係しているのかもしれないとキリは言う。たまに記憶がフラッシュするときがあるのだ。

「優しかったの?」


「どうだろうな。すごく厳しい人なのはわかるけど」

「何が目的なんだろう? マシロの態度を見ても敵って感じじゃないのよね。どっちかというとキリを鍛えているっていうか」


「俺を鍛える先に何があるんだ?」

「それは戦いの中で見出せってことなんでしょうね」


 それもどうなんだとキリは思ってしまう。戦いの先にあるのはつまるところ決着をつけるということだ。それは場合によっては生死を左右する。


 そんなことを考えているとコールが入る。確認をするとリルハからであった。

「リルハからよね?」


「せっかくだから王宮のほうまで来ないかだってさ」

「私も行っていいの?」


「『ニィナも一緒にね』だってさ」

 ちょっと気を遣わせたかなとニィナは少し申し訳なくなる。だが、久々の友人との再会には胸が躍るのであった。

お読みいただきありがとうございます。

引き続きよろしくお願いします。

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