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此方より幻想へ。彼方より現実へ。~皇系戦記~  作者: あかつきp dash
第一三話 黒、稜々たる国より
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■雪が降る ◎キハラ、ホノエ、マコナ、マシロ

「寒いと思ったら雪が降ってるじゃねえか」

「ついこの間までナーツァリにいた身としてはこの寒さは厳しいな」


 キハラとホノエは艦外へ出るなりげっそりした表情を浮かべる。

「かつては四季というものがあって春夏秋冬と巡っていたと聞きます。水母内だと再現が難しいそうですが」


 マコナがコートを着込んで出てくる。

「寒いのまで再現しなくてもいいけどな……」


 植物の大半が造花、造木ということもあって植えられているのは大半が常緑樹である。気温の調整は四季の一部をより再現するためのものだ。そのためフユクラードのダイツは寒い時期がある。


「どうして再現しようとするんだ?」

「どう足掻いても取り戻せないからでしょうね」


 ホノエとマコナの何気ない会話である。

 地球での生活はもう取り戻せない。いまの水母内での生活はあくまでかつての再現でしかない。地球という住処がすでに存在しないという事実が突きつけられている。


 しかし、それはすでに千年も経過していて現在を生きる人間にとっては当たり前になってしまっていた。だから、キハラのような文句も出るのである。


「それはそうとベルティワイザーとの親善試合の件ですが、どうしますか?」

 マコナからの問い。どちらが受けるか、あるいは二人ともでもいいという話である。


「私のほうはやぶさかではありませんが、キハラのほうはどうするつもりだ?」

「そんなの決まってるぜ。挑戦されたとあれば受けるのが男気ってもんだろうよ」


「キハラさんならそう言ってくれると思いました。初手はキハラさんから、ということで申請しておきますね」

 乗せられたんじゃないかとホノエなんかは疑ってしまう。だが、マコナから言われればキハラは断れまい。


「キハラ聞いたよ。アズミ様と親善試合を行うって。頑張ってね」

 後ろから声をかけてきたマシロに言われれば殊更だろう。キハラはマシロのことを亡き姉と重ねずにはいられないようで、彼女が絡むととにかくムキになる傾向がある。


「ふん。まあ、頑張らないこともないな」

 クールそうに答えようとするも声はうわずっている。

「……どっちなんだ?」

 

 そんなことを言いながらもキハラの表情は明らかに張り切っているものであった。

 ――調子に乗りすぎるなよ。とは思いつつもそんな友人の姿がおかしくてホノエはたまらなくなる。


「とりあえず休暇をいただけるそうですが?」

「長旅、戦闘、当然の権利だと思いますが。クエタの海を艦で航海する危険性を未だに理解されないことがあるようで悲しくなりますね」


「軍人は危険なところへ行くものだと認識されているのでしょう」

「水母も艦に比べれば少し安全というくらいのものなんですがね」


 壁一枚の話でしかない。いつかクエタの海はすべてを呑みこむかもしれない。その可能性がないと果たして言い切れるのか。


 隕石が一〇〇年後に落ちてくると言われたかつての人類はどんな気持ちだったのだろうか。案外、多くの人々は安穏としていたとマコナは考えている。


 大半はやはり切羽詰まってからようやく事態が動いていることを思い知る。しかし多くの場合、そうなってからだとすべてが遅すぎる。


 そんな考えをマコナはふと巡らせていた。

お読みいただきありがとうございます。

引き続きよろしくお願いします。

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