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此方より幻想へ。彼方より現実へ。~皇系戦記~  作者: あかつきp dash
第十二話 紅、燃ゆる国より
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■ソウジ家の兄妹 ◎ダイト、ミキナ

 ミキナは格納庫内で佇んでいるクーゼルエルガを見あげる。その混沌した外装甲は何とも禍々しい。

「あまり近づかない方がいい。存在そのものが禁忌のような機体だ」


「お兄様」

 ミキナが振り返るとそこにいたのはダイトであった。


「どうした? このような場所にくるのは身内とはいえ感心しないな」

「クーゼルエルガを見ていると私もいっそ取りこまれるほうが楽かと思いました」


「クーゼルエルガがもたらすのは静かなる死ではない。存在するかぎり苦痛を強制するというおぞましいものだ。あれはソウジ家の罪の象徴なのだ」

 楽になどはならないとダイトは説く。楽になりたいのであれば別の方法などいくらでもあると。


「死とは本来なら次代へと繋いだ者たちへの祝福でなければならない。だが、これは違う。生きた状態で苦痛を与えつつ装甲へ取りこみ、そのまま絶えず苦痛を与え続ける。その怨嗟こそがクーゼルエルガの力の根源だ」


「霊域旭界とはまた違うものであると聞き及んでいます」

「霊域旭界とは人神機にまで高められた機体がさらにその高みに到達した結果、演算領域に余剰部分が生まれて、現実にまで影響を及ぼせるようになり機体独自から編みだされた技を行使するようになる状態」

 

 ダイトは一呼吸置いて、さらに説明を続ける。

「クーゼルエルガに備わっているのは呪廻(じゆかい)。怨嗟による呪いの力を装甲に纏わせることで触れる者に呪いを振りまくというものだ」


「どうしてこのようなものを作ってしまったのですか?」

「ソウジ家の切り札だ。世界が敵にまわることを想定していた。そして、実際にそうなった」


「お父様はこの機体にどんな人を捧げたのですか?」

 ダイトは青白い顔色をこちらに向けてくる。まるで生気が感じられない。


「ソウジ家一族は死なずにこの機体に捧げられ続けた。お前の母もそこにいる。私の妻も子もな。そして彼らはいまも苦痛に呻き怨嗟を吐いている」


「では、ある時期に急にいなくなったのは……」

「そうだ。父上はお前にはそれを言わなかった。いずれお前も捧げるつもりだったからな」


 次に顔面を蒼白にしたのはミキナであった。

「そんな……」


「父上は不老不死の体になってもはや身内に対しての感慨はない。子供や親族たちはもはやクーゼルエルガの供物程度にしか考えておらん。だから近づくな。お前は自分の役目を果たせ。そのうえで考えるのだ」


「兄上は?」

 ――どうなのかとミキナは問いかける。


「私は父上のためにすべてを捧げた。子供や妻は他ならぬ俺がクーゼルエルガに捧げたのだ。この業は私自身が背負ってみせる。でなければな」


 ここまでの覚悟を示すためにやったことに迷いを生じさせては自分がまともでいられないとダイトは言うのだ。


「当時の私はティユイ皇女の世話役として、お父様に汚された彼女をいつも世話をしていました。それが終わったと思えば友人のフリをして監視するように仰せつかりました。私の存在とは何なのでしょうか?」


「私にはお前とティユイ皇女の友情は偽りのようには思えなかった。お前はその友人の理不尽な人生とそれに対して何もできなかった自分に憤っているのではないか?」


「わかりません」とミキナは俯く。

「答えを急ぐな。生きていれば考える時間はいくらでもある。それでも不足すると感じるのであれば子をなし、託せばよい」


「お兄様……」

「私を兄と呼んでくれてありがとう。このように不出来な兄ではあるが、ミキナの幸福を心より祈っている。だから、自分を大事にな」


 それだけを言い残してダイトはその場を去って行く。

「お辛いでしょうに……」


 その彼の心中は如何ほどのものか。察するにはあまりあるものがあった。

お読みいただきありがとうございます。

引き続きよろしくお願いします。

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