■山ごもり ◎キリ、カリン、マシロ、ニィナ、アスア
海岸の屋敷から少し離れたところに登山口の入り口があった。
「この山頂に寺がある」
マシロがバックパックをキリに押しつけながら話しはじめる。
「何だよ、これ?」
「キリはカリンと一緒に登山するんだよ」
「だから何でだよ?」
「カリンは修行だよ。次のお祈りは修練がいるんだ。君はそのお供」
「上には山寺があるだけだろ。そこで修行になんかなるのか?」
「寺とか神社っていうのは御魂の集積する場所になっているんだよ。僕らの先祖は墓石を放棄したけど、御魂は存在し続けている。安息は必要だ。だから寺社仏閣はある」
「いつも思うけど、マシロは物知りだよな」
「年寄りのように言うのはやめてほしいな。僕はまだ一四歳だから」
「年齢と見た目ってアテにならないよな」
「それはレイア様のことを言っているのかい。君のお母様だよ」
「そうだった。そういう意味だとマシロと俺の年齢ってそう変わらないんだったな」
「僕は赤ん坊の君を知っているんだよ。お姉さんだね」
「そういえばどうして俺が大きくなるまで待っていたんだ?」
「僕が君の父上に結婚を迫ったんだよ。そしたら君が大きくなるまで待ったらって言われたんだよ」
「……それで待っていたのか?」
キリは少し引き気味である。
「君のお父上はレイア様に夢中だったからね。ぞっこんすぎて彼女以外と関係を持たなかったくらいだ」
「それで俺にまわってきたと」
「そうさ。君の現状はいわば君の父上の業とも呼べるものだ。だから生きてやり遂げないとね」
マシロは何かを見透かしたように言葉をキリに投げかけた。それに対してキリは口を思わず横一文字にしてしまう。
この反応にマシロは苦笑いを浮かべる。
「カリン、本番は命がけだ。修練はしっかりね」
「はい!」
カリンの表情は強ばっている。少し力んでいるようだ。
「大丈夫。君ならできるよ。キリも一緒だ。しばらく二人きりなんだ、存分に甘えたまえ」
「いいんですか?」
ふとカリンは少し拗ねた感じのニィナに視線を向ける。
「年上のくせに独占欲が強いったらありゃしない。彼女は僕に任せて大丈夫だから」
そう言ってマシロは半ば強引に二人を送り出した。
「……ばか」
ニィナがつぶやく。
「そういうのは本人にはっきり伝えた方がいいよ」
マシロがニィナに送ったアドバイスであった。するとニィナはため息を一つついてキリに向かって大声で叫ぶ。
「キリのバカー!」
するとキリは振り返ってニィナに手を振った。彼は現状をどうすることもできないと理解しているのだ。だから戻ってはこない。
「焼きもちははっきりと焼いてるって伝えてやるほうがいい」
「そうやって達観したフリをするから年長扱いになるんじゃないの?」
アスアが言った。
「そうだね。覚えておくよ」
これもまた損な役回りなのだとマシロは自覚せざるを得なかった。
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