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此方より幻想へ。彼方より現実へ。~皇系戦記~  作者: あかつきp dash
第十一話 白、立ちのぼる国より
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■アークリフを発つ ◎キリ、マシロ、ニィナ、キハラ、クワト

 キリたちは軍港のミーティングルームに集まっている。


「目的地はナーツァリ国領、首都のナウタになる。目的はスヴァンヒルトとの接触とヴラシオのパーツの受領である。これについてはマシロ王女より話がある」

 クワトが視線で促すとマシロは頷いて話をはじめる。


「先日、僕がヴラシオのヘッドパーツに祈りを捧げると反応があったんだ。つまりヴラシオの封印を解くのと姫巫女の祈りには因果関係がある」


 マシロは一呼吸置いて話を続ける。


「つまり海皇の象徴たるヴラシオの復活は四国の姫巫女の祈りによって成就される。まあおとぎ話のようだけど、どうやらこれが確信のようなんだ」


 一同が顔を見合わせる中、キハラが発言をする。

「祈りの最中にマシロはすぐ倒れたよな。下手したらみんなティユイ皇女みたいになるんじゃねえか?」


 チラリとキリのことを気にしながらもキハラははっきりとティユイの名を出す。

「……俺はそういうことならヴラシオの復活は反対だな」


 キリは俯きながら懇願するような視線をマシロに向ける。

「だからこそ先人たちの力を借りようと思う」

「どういう意味だ?」


「ハルキア領にアージという水母がある。そこに妻岬という切り立った場所がある。そこは多くの御魂が漂っているという死の世界にもっとも近い場所とされている。その御魂の力を使って僕たちの祈りの力を増幅する」


「そんなことが可能なのか?」

「できるよ。まあ危険なことには変わりないかな。だからこそ、僕ら姫巫女と皇子は強い絆で結ばれなければならないんだ。僕たち姫巫女同士の結束も欠かせないしね」


 互いの信頼こそがヴラシオの覚醒を促す。そうは言われてもとキリは頬を掻くしかない。

「具体的にはどうやるんだ?」


「キリ、試しに僕のことを褒めてみてよ」

「へ? ああ、それなら……。今日も可愛いな」


「うんうん。もっと言って言って」

「えっと落ち着きがあって知識もあるし思慮深いよな。その割に無邪気なところがあって子供っぽいところも魅力だと思う。あと体型が幼いことを気にしているみたいだけど、俺はそれをひっくるめてマシロのことが好きなんだけどな」

 それを聞いている周辺の者たちがげんなりとした表情を浮かべだす。


 対してマシロは徐々にむず痒そうな表情に変わっていく。

「わ、わかったから。もういいよ。もうやめ!」

 降参とばかりにキリに褒めさせるのをやめさせる。


「何でそんなに僕を褒める言葉を持っているんだよ、君は!」

 マシロは顔を真っ赤にしている。よほど恥ずかしかったのだろう。対するキリも少し恥ずかしそうだった。

「いやぁ。言葉って案外出てくるものなんだよな」


「マシロもこんな表情するんだ」

 ニィナがニヤニヤと笑みを浮かべる。


「君は僕を何だと思っているんだ」

「私からすれば五〇〇年生きていることになっているもの」


「それは僕が時間庫の中で過ごしていただけで、実際は一四歳の小娘にすぎないよ」

「その割には知った風な雰囲気をいつも出してるじゃない」


「何とでも言ってくれ。今日は僕に非がある。正妻を差し置いて、こんなことをしちゃいけなかったね。というわけで、ニィナのことも褒めてあげなよ」


「それなら」とキリが言葉を考えようとするとニィナは遮るように全力で首を何度も横に振る。

「いい! いいから!」 


「惚気を見せつけるんじゃねえよ。こっちは胸焼けレベルだぜ」

 ケッとキハラは吐き捨てる。あきらかにキリへの視線に嫉妬の色が混じっていた。


 たしかにこれ以上はやめておこうとキリは自重することにする。

「ところでこれって何の意味があったんだ?」


「あったわよ。マシロの面白い顔が見れたわ」

 それって性格が悪くないかとキリは首を傾げる。


 それから機を見ながらコホンとクワトが咳払いをする。すると場の弛緩した空気が引き締められる。


「この一月ほどの滞在で我々はアークリフからの支持を得ることができた。だが、それは戦いの準備が着実に進んでいくということだ。一戦一戦の重みがこれから増していくだろう」


 一同はおもむろに頷く。それからレギルヨルドに物資の搬入が完了したという報告が入る。


 ナーツァリへの出港は間もなくであった。


お読みいただきありがとうございます。

引き続きよろしくお願いします。

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