■祈りの時 ◎マシロ、キハラ
海を漂っていると白い波が打ち寄せて波打ち際へと広がり満たされていく。
――もう朝か。
マシロの目がゆっくりと開けると顔を横に向けた。それから胸元をシーツで覆いながら上半身を起こした。
マシロは少し不満そうに口を尖らせて、思わずため息をつく。
「ばか」と彼女がそうつぶやいたのかもしれない。
ベッドから降りると椅子の背もたれにかかっていたキャミソールに袖を通す。それからクローゼットを開いて白い袴を取り出して手早く着付ける。
それから髪をセットして外へと出向く。行き先はヴラシオのパーツが保管してある倉庫だった。
(試してみるか)
マシロは膝を折って両手を合わせて祈りの姿勢をすると石塊でしかなかったヘッドパーツから青白い粒子が浮かびあがる。
「あれ?」
すると頭がくらりとして体から力が抜けるのを感じたと思うとふらりとなって倒れそうになる。それを抱き止めたのはキハラであった。
「無理すんじゃねえよ」
「すまない。力をこめすぎたようだ」
「……やりすぎるとティユイ皇女みたいになるんだよな?」
「倒れるのも十分やりすぎなんだよ」
キハラが気まずそうに顔を伏せると、マシロはその頭を撫でた。
「俺は子供じゃねぇ」
「でも、君は僕にお姉様を重ねているんだろう?」
「そうだとしてもだ。マシロは姉上じゃねえんだよ、やっぱりな」
「そうだね。僕には君の姉上の記憶が流れてくる。それでも僕は君の姉上にはなれない」
キハラはむず痒いような表情を浮かべて訊ねてくる。
「俺も姉上も王家の中じゃ末席だったんだ。そんな中で姉上は巫女に抜擢された。大変だったと思う」
いまならわかる。だが、あの時は子供だった。
「君の姉上は喧嘩した後、どうやって仲直りしようかずっと考えていた。君の所に帰りたくなかったわけじゃない」
「……それはわかっているつもりだ」
キハラはマシロに向き直る。
「俺じゃあダメなのか? あんたの守り手として俺の役目を全うするに相応しい相手だと思うのは自惚れなのか?」
マシロは首を横に振る。
「仮に僕が君の姉上であっても断っただろうね。それは既に僕だけに向けていいものじゃない。君は君が思っているより立派なものを背負っている。それにその想いに答えるべきは僕じゃない。君もわかっているんだろう?」
キハラはマコナのことがふと頭によぎる。
「勘弁してほしいところだけどな」
「そういう君は嫌そうじゃないけどね」
クスリとマシロは笑う。
「キリがナリョウまで来た。ならば、僕たちも動くときだ。迎えに行こうじゃないか、ナーツァリまで彼女たちを」
それにはキハラも頷く。たしかな意志を持って。
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