■ラグア、戦場へ乱入す ◎キリ、クワト、キハラ、ダイト
「これはどういうことですかな、クワト艦長?」
『言葉通りだ。むしろ、少女を差し出せなど軍を使ってやることとは思えんな』
クワトとダイトが会話をする。
「マシロ王女は特別なお方です。そちらが何もしなければ謹んで招待するところ」
『それが信用ならんと言っている』
するとさらにもう一人会話に入ってくる。
『クワト艦長、俺から話す。こちら第一三独立部隊人機部隊所属のシキジョウ・キリだ。ダイト司令は軍を退け。お父上にお叱りを受けたくないのであれば』
ダイトの眉根がピクリと動く。
「それはどういうことですかな?」
『……言葉通りだ。もし退かないのであれば、そちらの大隊は大きな損失を被るだろう』
「何を?」
ダイトがふと視線を味方機のマグに視線を向けると、機体が大きく揺れた。
「艦砲射撃だと!? どこからだ?」
どこからだとセンサーで索敵する。だが、それよりも速く純白の機体が接近してきてマグの腕が切り離される。
一機減らされて連携をとろうとするも砲撃がとんできて動きが乱される。しかも砲撃がどこからとんできているか依然わからない。
「くっ。どうなっているのか?」
ダイトは呻く。
――その砲撃手はキリが担っている。
弾道予測を簡単にはとられないよう距離は部隊から相当離れたところに配置されていた。
光弾銃の先端部分から少し離れたところにリングが二つ。一つは光弾収束器、もう一つは光弾より遠くへとばすための加速器である。
光弾を撃ち出す際にリングを通ることでその威力は発揮される。軍事法のため六鱗を撃ち抜くというわけにはいかないが、機体を揺らすくらいの威力までなら問題はない。
「六鱗の合間を打つ抜くのもできるんだけどな……」
「それも軍事法に違反する行為なんだろう?」
「まあ、そうなんだが」
ポリムとやりとりをする。これにもキリはだいぶ慣れた。
ラグアが砲撃をして敵部隊の攪乱をしつつ、その間にニィナのナワールが次々にマグを戦闘不能していく。
「キハラ機、聞こえるか?」
『ああ、聞こえてる』
キハラがぶっきらぼうに返事をする。
「ラグアの霊域旭界でクーゼルエルガの力を抑えてみる」
『可能なのか?』
「あれは霊域旭界とは別の力関係で成り立っている。多少抑えるという位だと認識してほしい。なので牽制している間にセイオームのマグをすべて潰す」
『頼もしいことで』
「キハラの協力が必要だ。頼めるか?」
そんな風に言われれば聞かないわけにはいかないとキハラからふっと笑みが浮かぶ。
「任せな、この俺にな」
「ダイト司令、聞こえるか?」
『聞こえている。クーゼルエルガに干渉するとはな』
「その禍々しい力は放棄することを勧める」
『断る。この力はソウジ家の切り札だ。何人の指図も受けぬ』
キハラのガナウィルクがつかず離れずの砲撃でクーゼルエルガに牽制を入れる。さらにラグアがガナウィルクに援護射撃を送りながら戦闘区域まで接近していく。
ラグアの見た目に驚いたのはセイオーム軍だけではなく、アークリフ側もであった。
どうしてあれがまともに動くのか。とてもではないが信じられなかったからだ。
しかし接近してくる速度は他の人機と比べても遜色はまるでないどころか、ガルダートの機体速度はガルダートの補助もあって、マグの速度を凌駕している。
戦場の真っ只中に乱入したラグアはツルギを抜き放つ。その刃先のことごとくは欠けて、先端部分に至っては折れてしまっている。それでもリミッター解除をすれば黒刃から白銀の光を放ちはじめる。
その白銀の光は通常のツルギとは比べものにならないくらいの光を刃にまとっている。
セイオームのマグがラグアの前に立ち塞がり、盾で巧み刃を隠して振る際の軌道を読ませないように接近をしてくる。
「どうする?」とポリムが訊ねてくる。
「時間稼ぎには付き合わない。……仕掛ける」
ラグアはスラスターを噴かせつつ加速させながら、マグに対して上体を反らしはじめる。それからマグがツルギを振りかぶってくるであろうという瞬間に光弾銃に付けていた盾をパージして目くらましに使う。
その間にラグアは足元のほうへ潜りこんでマグの右脚太ももを切り捨てつつ、すり抜ける。そしてガルダートが遅れてくるところをパージした盾を前足でキャッチして、ラグアの後を追ってくる。
ガルダートの速度をあげていき、ラグアを追いこす際に盾を落としていく。ラグアはツルギを腰の部分にしまって盾をキャッチする。
狙いを付けたマグに対してラグアは射撃を開始して、相手の注意を引きつける。その間にガルダートを接近させて、マグの右脚を前足のツルギでもぎ取らせる。
これで二機は戦闘不能となる。あとはアークリフ軍のマグと戦闘をしているセイオーム軍のマグが残されているのみだ。
それをキリがアークリフ側への援護を行う。
「再度、通告する。まだ戦闘を続けるか?」
ダイトにキリは再度通告する。一方でクーゼルエルガの母艦はレギルヨルドとニィナのナワールから後方を詰められつつあった。
『……してやられたか』
現状を認識したダイトは思わず肩を落とす。
「まだ続けるか?」
『いや、あなたの指示通り退却しよう。だが、覚えていろ。次はこうはいかん』
クーゼルエルガから退却の信号弾が放たれると、セイオームは軍を引きはじめる。
「次回もやられてくれそうだよね。ああいうの何だっけ? 捨てゼリフ?」
「……言ってやるなよ」
キリはポリムの言葉に思わずため息を漏らすのだった。
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