■ヴラシオ・ラグア ◎キリ、アスア
――ああ、死にたい。
何もできなかった。
ただ見ているだけだった。
そんな自分を彼女が救ってくれた。
だから、自分は生きている。
自身に課せられた義務を果たせる気はとてもしない。
だからといって放棄するほどでもないと思っている。
受け入れてしまえばどうということのない話。
どうしたって自分がここにいる。
それを否定したかった。
もう、この世界にいる必要はないじゃないか。
飛びだしたい。
ここではないどこかへ……。
――キリはハッとする。
気がつけば格納庫にいた。
ラゲンシアは一見すると半壊したような姿をしているが、破損した右目部分を覆うバイザーが被され、装甲が破損したところには部分的に装甲を継ぎ接ぎで補強してある。さらに背面についていた二つのスラスターは左の部分が欠損して右の部分しか残っていない。
その装甲は専用のものではないため無理矢理に取りつけられたようでテープを巻かれている。
どうしてもそれでは補強できない部分もあるようで、左肩の部分から下はマントに覆われている。
その足元で祈る少女が少しふらつく。それをキリが慌てて受け止める。
「アスア、あまり無理をするな」
「お姉ちゃんを感じていたくて……」
「ティユイのことで君が気を病むことはない。すべて俺の力不足のせいだ」
アスアはキリの両腕を強く握りながら首を横に振る。
「それこそ違うわ。あなたはお姉ちゃんにできることをした。だからこうして生きている。それがお姉ちゃんの願いなんだわ」
「……そう、だったんだろうか?」
ラグアをキリは見あげる。不思議と視線が合ったような気がする。
「あなたがいまお姉ちゃんの近くにいるのよ。私でもなく、あながたね。もっと耳を傾けて――自分に自信を持って」
「アスア、それはきっと俺だけじゃできないことだ」
アスアはゆっくりと頷き、キリの両手を握る。
「こんなこと誰も一人に押しつけないわ。お願い、私にも――私たちにも手伝わせて。あなたが背負うもののせいであなたが孤独にならないよう」
「俺は頼りないだろうか?」
「そういうのは関係ないわ。でも、誰かを頼るって気恥ずかしくって言い出しにくいのよね。それができる人に少しでも近づかないとね」
「そうだな。つらいときにはつらいって言ってもいいんだな」
「そうよ。そしたら誰かが助けてくれる」
アスアは力強くウインクする。
「きっとね」
「そうだな。何だかこうしてずっと励まされているような気がするよ」
「それはきっと生きていくうえで大事なことなんだと思う。でも、できることはやらないと」
「アスアの祈りはきっとティユイに届いているよ」
「ありがとう、キリ。私も信じるね」
二人は黙したままラグアを見あげるのであった。
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