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■火の巻 離別のエピローグ ◎エリオス、ガレイ

 私はグラード・エリオス。この世界に顕現させられた者だ。


 私は誰かに創造された存在らしい。


 創作の人物なのだという。


 私は要するに悪を為すことを前提として作られた物語の一登場人物なのだ。


 虐殺をする自分も戦場に出て戦う自分もすべて設定された絵空事。


 私の行為はすべて娯楽だということだ。


 刺激的な展開がお望みだという。物語とは誰かが不幸になって、あるいは誰かが死ぬ。


 その展開をより面白く描けば褒めてもらえるのだという。


 それは私からすれば異常な世界だ。


 戦い傷つくことを憎むとしながら、やっていることはその真逆ではないか。


 創作では私のような人間を生み出し悪事を強要させる。


 誰かの不幸を望み、死を積み重ねることを望んでいる。


 私は寒気が奔った。


 すべては自分の意志――行いであるとずっと思っていたからだ。


 こんなことが許されようか。いや、許されるはずがない。


 だからこそ悪を為すことを私に強要する存在――望む存在を許してはならない。


「ソウジ・ガレイくん、私の最後の贈り物だ」


 ――旧人類(ホモ・サピエンス)よ!


 その存在が滅んでも尚、永久に苦しみ続けるがいい!


 エリオスは感情が霧散していく気がした。そして一瞬だけガレイと同調する。


 ふと何かが聞こえた気がしたガレイは椅子に座ったまま顔をあげる。


 我ながら名演説だった。これで民意をさらに引きつけられるだろう。


 しかし、そんなことにはならなかった。


 自らに疑念の感情がまわりから押し寄せる。


 ――どういうことだ?


 その出所はとある音声からだ。


『ふはっ! はははっ! でかした! よくやった! 小煩い王どもはもう一言も語らなくなったぞ!』


 紛れもないガレイの声だった。


「違う。これは陰謀だ。そうに違いない。私がこんな残酷なことをするはずがないだろう。私は慈悲深く、この惨劇を誰よりも嘆いている。五カ国会議から奇跡の生還を遂げたソウジ・ガレイなのだぞ」


『閣下、これはどういうことですかな?』

 小憎いアイト・トウキから通信が入ってくる。


「これは私を貶めようとする陰謀だ」

『そういことでしたら一刻も早く首謀者を突き止めねばなりませんな。……ところで五カ国会議の襲撃事件の件なのですが、その首謀者と思しき人物が襲撃時に使用とした自動人形の指示内容が公開されているのはご存じですか?』


 寝耳に水であった。

「ほ、ほう。それはどういった内容であったのかな?」

『ガレイ閣下には銃口を向けないよう指示がなされていたようなのです。これですとたしかに閣下が無傷であったのも頷けます。ああ、申し訳ない。これも閣下を貶める陰謀の類いでありましょう。原因の究明を急ぎませんと。それでは私はこれで』


 トウキからの通信が切れる。


 ――エリオスに謀られた?


 ガレイは狂ったように雄叫びをあげる。


 それから足元にあったプラスチック製のゴミ箱を蹴飛ばし、何度も何度も踏みつける。それこそ壊れても執拗に何度も踏みつけた。


「ちくしょう! ちくしょう! どいつも! こいつも! 俺をコケにしやがってぇ!」

 その目には涙がたまっていく。


「俺はソウジ・ガレイなんだぞーっ!」


 そこは狭い室内。ひどく狭い世界の中でガレイは誰にも聞いてもらえない――それでも大声で叫ぶのであった。


 その後、この一連の事件はこう呼ばれる。


 ――『ガレイの虐殺』と。

お読みいただきありがとうございます。

ここでようやく全体の話でいう半分折り返しのエピローグのエピローグとなります。

次回は復活をテーマに四部がはじまりますので、引き続きよろしくお願いします。

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