■クラバナの一族 ◎ニィナ、シンク
レギルヨルドに乗りこもうとするニィナをシンクが呼び止める。
「どういったご用ですか?」
出港時間が近づいてきているのにシンクがわざわざ出向いて来たのだ。
「君の先祖の話をしておこうと思ってね」
「はあ?」
ニィナは意図がわからなかった。
「千年ほど前に君の先祖にシャルナという女性がいた」
「話だけなら聞いたことがあります。地球残存側の凄腕のパイロットであったと」
その子孫がニィナにあたる。クラバナの姓もこうしていまだに残っているのである。そのためクラバナから優秀なパイロットが出てくることは多い。
「実はシャルナと俺は結婚していたと言われたらどう思う?」
「どう思うと言われましても……シンク様はおいくつなんですか?」
「俺もレイアも古い人間だよ。それこそ千年は生きている。シャルナは通常の寿命だったから別れは必然だった」
「人機のいまの運用法の基礎を築いた方だとは聞いたことがありますが、そんな昔から」
「千年前、俺とシャルナの間に双子の子供が生まれた。その子孫が君なんだ」
それを聞かされてもどういった反応をすればよいのやらという表情をニィナは浮かべる。
「これだけで戦力アップだろう?」
それを言われてようやくニィナはシンクの意図に気がつく。
「思考同期ですね」
ニィナがシンクを親族だと認識すれば彼の体験を自分に反映できるということになる。
「ああ、これがクラバナに秘匿とされていた話なんだ。でも、状況としてそうも言ってはいられない」
「はい」
「君にキリを託さないといけない。意味はわかってもらえるな?」
ニィナはシンクをまっすぐ見つめ直して頷く。
「いい話を聞かせてもらいました。機会があるならシャルナ様の話を聞かせていただいても?」
「もちろんだ。その約束はいずれや必ず」
「はい。約束です」
もう出港だとニィナは声がかけられる。
生還する理由が一つ増えたなとニィナは純粋に喜んだ。
「嬉しそうだな?」
それを乗艦してからキリに聞かれる。「何かいいことでもあったのか?」と。
「また教えてあげる」
ニィっと笑みを浮かべるとキリはただキョトンとするのだった。
どこにでもあるようでないような話。
千年の秘密が解かれた瞬間であった。
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