■これから ◎キリ、レイア
序文
我々は選民である。よって地球の代表として人類の代表として生きていかねばならない。
それがこれからヴラシオが落ちる地球を脱出する者たちの主張であった。
しかし極東の皇族が地球へ残り、最期の瞬間までを民たちとともに生きると宣言したことですべてが逆転する。
にわかに信じられていなかったヴラシオが地球に落ちても問題はないという説は一蹴されていたが、それが再浮上をはじめる。
エーテルの研究。水母の誕生。
ホモ・サピエンスを主体とした宇宙移民者たちは自分たちが捨てられたように思うようになった。
ヴラシオが地球に落ちればただですむはずがない。
王族たちを説得して地球から脱出させなければいけない。
しかし説得は失敗する。
端に発したのは地球に残る人々を宇宙へあげようとしたことにはじまる。それに反発する地球の人々は半ば強制的に宇宙へとあげられる。
それから地球残存者と宇宙移民者による戦争がはじまる。
結果的に両者の決着はつかなかった。
宇宙移民側は強大な資本力や資源による強大な武力を持っていたが、それをもってしても屈服させるには至らなかった。
地球側は最後まで皇族を守るため懸命に戦ったのだ。
――◇◇◇――
ラゲンシアの前に呆然と立ち尽くすキリにレイアが近づいてくる。
「ティユイのこと知っていたんでしょう?」
キリはぎこちなく頷く。
「俺はティユイに何も出来なかった。何一つ。だから死なせてしまった」
レイアはラゲンシアのコックピットシートに触れながらもキリの方へは振り向かない。
「違うわ。あなたは彼女を救ったのよ。あの娘は家族とより大きなものを守るためにすべてをなげうった。結果として大きな傷を負ったわ。取り返しのつかない深い傷をね。傷というのはね、なくならないのよ。塞がるだけで傷跡はずっと残る」
キリは黙って聞いていた。
「その傷跡までも含めて慈しめるのか。愛するということは相手の尊厳を守るということなのよ。あなたがティユイにプロポーズしたことで、どれほど彼女は救われたと思う?」
キリは首を横に振る。
「女性の尊厳とは相手を女性として扱うからこそ保たれるものなの。」
「幸せとは自分で掴めるようなものではないわ。いつも誰かが遠くから運んできてくれるのよ」
レイアはキリの両肩に手を置く。
「誇りを持ちなさい。あなたは一人の少女を救ったのよ。ティユイが最期にあなたへかけた言葉が何だったのか、もう一度思い出してあげて」
――ありがとう、と彼女は言った。
「あなたはよく頑張ったわ」
レイアはキリを抱き寄せる。
キリはそこでようやく泣いた。
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