■二〇二六年一二月二〇日 ◎物部由衣、新田美希奈
四条河原町。あたりはクリスマスで装飾されている。これが二五日を過ぎれば一気に正月の装飾に変わるのだから面白い。
日曜ということもあり人通りは多い。由衣と美希奈の二人はその中にいた。
由衣の手には次年の一月二五日に大規模な避難訓練があるというチラシを手に持っていた。
「それ預かるよ」
美希奈は由衣からチラシを預かると折り畳んで自らのコートのポケットに入れる。
「何なんですか、さっきのチラシ」
「忘れたらいいよ。気にするような話じゃないから」
忘れろという言葉が由衣の耳に残る。それと同時に先ほど見たはずであるチラシの存在がすっかり抜け落ちる。
「式条君のプレゼントを買うんだよね」
話題が変わったことで、由衣の口からチラシの話はもう出ることはなかった。
「はい。何を買えば喜んでくれるでしょうか」
何でも喜ぶでしょうと美希奈は言ってやりたかったが、それは由衣の望む答えでは決してないだろう。
それに美希奈にとって親友と過ごせる時間こそが至福である。自らの不適格な言葉の選択で水を差すなど馬鹿げていた。
「こういう場合、ついつい相手のことを考えて選ぼうとするけど、実際は自分が欲しいものを想像して選ぶといいよ」
「どうしてです?」
「プレゼントって相手に自分を知ってもらう絶好のチャンスでしょ」
「だから自分を知ってもらえるようなモノを選ぶのがいいと」
美希奈はゆっくりと無言で頷く。
「だったら新作のゲームとか、欲しいプラモとかですかね」
由衣は身を乗り出して息をまく。
「……押しつけと思いやりは似てるようで違うよ」
さすがの美希奈も呆れたようで、大きなため息をついた。
「ちなみに私だったら張り倒してやるから」
美希奈の目が据わっている。どうやら本気のようだ。
美希奈は由衣の腕をがっちりと掴む。由衣が行きたそうな店へ行くのを阻止するためだ。
クリスマスが終われば正月がきて、二月になればバレンタインがある。
由衣にとって桐と美希奈と過ごせる時間が何より楽しかった。だが、彼女は気づいていなかった。かしこに彼女の視界に入っているはずなのに視えていないもののことに。




