■戦いの兆しありか ◎エリオス、スム
広大な格納庫に老若男女問わず姿をした私服姿の精巧な人形が二〇体ほど並べられている。
「この人形は何ですか?」
スムは人形をまじまじと見つめる。目をつむったまま直立不動で立っている姿を見ていなければ、その辺を歩いている人間と大差はない。
「私の兵士たちだよ」
「私服ですが?」
「テロリストの戦闘服とは私服なのさ。なぜかわかるかい?」
「市民に紛れて戦うためでしょう」
「その通り。武器を持った私服の兵隊はすべからくテロリスト。武器を持たなければただの市民。しかし、テロリストは市民に紛れる。だからテロとの戦いに虐殺が起こるのさ。軍隊は市民とテロリストの判別がつかないからね」
「そう言われるとテロリズムの正当化は難しいように聞こえます」
「そうだよ。たしかに虐殺は軍隊によって引き起こされたものだが、誘因するのはテロリストだ。テロリストは本来、味方である非武装の一般市民をそれも理解したうえで盾にするんだよ。タチが悪いのはどっちだろうねぇ」
エリオスはニヤニヤ笑っている。
「あなたはそれをやろうとしているんですよね」
「テロリズムとは確信犯だよ。強い立場の奴は安全なところで高みの見物を決めこむのがポイントさ。兵士を無償で増産して消費することで莫大な利益を得る」
「で、どうするんですか?」
えらく手間のかかることをやっているようにスムには思えたのだ。
「もちろん、閣下は五カ国会議をぶち壊せとご所望だ。私はテロによる奇襲攻撃を敢行する。一度きりしか使えないが、そもそも継続性は必要ない」
「ソウジ・ガレイのことを嫌っていると思っていましたが、任務には忠実なのですね」
「雇い主の依頼くらいこなすよ。仕事だからね」
そこに好き嫌いはいらないのだとエリオスはきっぱりと言う。
「まあ、見ていてくれたまえ。ド派手に無差別に殺しまわっているように見せかけての確実に殺すべき相手は仕留めるっていう繊細な戦法をお目にかけよう。よかったら今後の参考にしてくれたまえ」
――なるかはわからないけれどね。とエリオスはうそぶいた。
「その言い方だとあなたと出会うのはこれが最期になりませんか?」
エリオスは「え?」とつぶやいて最初は驚いた様子だった。
それから「くくく」と腹を抱えて笑いだす。
「……どうしたんですか?」
「いやぁ、すまない。私にも人間的なところがあったらしい。そうかそうか――」
スムはエリオスへ気味が悪いものを見るような視線を投げる。
「エリオスさんは十分人間味の溢れる方ですよ」
スムはふうとため息をつく。
「まるで褒められている気はしないねぇ」
エリオスがさらに格納庫の奥を眺める。そこには十数体の巨大人型メカが控えているのであった。
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