■妹との再会 ◎アスア、ティユイ
フユクラードの首都ダイツ。都市部から少し離れたところにシキジョウ邸はあった。
現在、彼らは街中に別邸を構えているのだが、催し事を主催するときにシキジョウ邸は利用される。シキジョウ邸はセキュリティの面でフユクラードでもトップクラスなためだ。
ショートボブの髪型をした少女は口を横一文字にしながら硬い面持ちでソファに座っていた。それでたまにほうっという息が漏れている。先ほどからそれを繰り返していた。
隣には落ち着いた感じの年上の女性が座っている。名前はたしかアヤメといったか。
「もうエントランスに入られたということですから、間もなく来られますよ」
アヤメは落ち着かせる目的か声をかけてくる。
「すみません。こんな調子で」
「お姉さんに会うのは久しぶりなんですよね」
「はい。どんな顔をすればいいのかわからなくて」
「心配なさらずとも顔を見れば自然と浮かべるべき表情になりますよ」
「そうでしょうか?」
「さあ。どうでしょうか?」
アヤメは意地悪く肩をすくめる。
「さっき言ったじゃないですか」
からかわれたことに頬を膨らませる。だが、これがアスアの緊張をほぐす行為なのだとすぐに理解した。
すると扉の向こうからコンコンと叩く音がする。
「どうぞ」とアヤメが返答すると扉がゆっくりと開く。
そこにいたのは何年ぶりだろうか。
「お姉……ちゃん」
「アスアちゃん、お久しぶりですね」
ティユイはゆっくりとした動作でアスアの方へ歩いて行く。
「何かあればお呼びください」
アヤメがティユイと入れ替わる形で部屋を出て行く。
「お姉ちゃん!」
アスアはティユイの胸の中に飛びこんでいた。
「元気そうでよかった」
ティユイは心から安堵した口調だった。
「みんな……みんなが助けてくれたからだよ」
「そうですね。みんなに感謝です」
ティユイはアスアの頭を優しく撫でる。
「お姉ちゃんは大丈夫だったの?」
「もちろんですよ」
ティユイはにっこりと微笑む。一方でその笑顔にアスアは何か引っかかるものを感じてしまう。
そもそも大丈夫なのかという問い自体が間違えではなかっただろうか。
「あのソウジ・ガレイって人に捕まってたんだよね。本当に何もなかったの?」
「人の子であれば悪いようにはしないはずでしょう」
それは答えになっているのだろうか。気のせいかティユイは遠い目をしているように思えた。
「お姉ちゃん?」
アスアはどう聞くべきか迷ってしまう。
「アスアちゃんは五カ国会議に出席するんですか?」
ティユイの問いにアスアは首を縦に振る。
「うん。私が無事だってことは公開されるべきだって」
「そうですね。皇族の安否を民たちは気にかけています。そして、これからどうするのかも」
「お姉ちゃんはどうしたらいいと思う?」
「キリくんが皇子であるならば状況は大きく変わります。私は五カ国会議にてソウジ・ガレイを告発します」
ティユイにはたしかな意志を双眸に宿し言い放つ。
「うまくいくの?」
「キリくんが皇位を継ぐのであればソウジ家の主張は完全に瓦解します」
そうすれば民意を失ったソウジ家は後ろ盾がなくなる。
「アスアちゃん、見てください」
ティユイは服を脱ぎだして、アスアに素肌をさらす。
アスアは絶句する。全身がアザだらけだったためだ。
「ひどいと思いますか? ソウジ・ガレイはこのような行為を――暴力によって他者を無理矢理従わせるような男なのです。これは我々が知っている国是とは異なる考え方です。あの男はそれすら変えようとしているのです」
アスアはわなわなと口を震わせている。
「ごめんなさい。あなたには黙っているつもりでした。でも、敵を知っておかなければなりません。そのうえでお父様とお母様へ行った蛮行についても知っておいてほしいのです」
「……お父様とお母様はどうなったの?」
聞きたいと聞きたくないが半々というところの表情をアスアは浮かべている。
「お父様とお母様は異界送りにされました」
異界送りとは肉体を消滅させて、クエタの海によって創作された別の世界へ魂を送りこむことを指す。
異世界に送りこまれた際に別の肉体か、あるいは生前と同じ肉体を手に入れることもある。何でも送られる際――死に際までの記憶を持って異世界へ往くことがあるという。
これはいつしか異世界転生と呼ばれるようになった。
「帰ってはこれないの?」
異界送りの際、肉体は消滅してしまう。つまりは――。ティユイは黙ったまま首を横に振る。
「そんな……」
アスアは涙しながら声が震えていた。
「だからこそ問わねばなりません。ソウジ家の考えが本当に民意のあるべき姿のであるのかをです」
ティユイは服を着た後にそっとアスアを抱く。
実に二人の姉妹は五年ぶりの再会であった。
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